「笠木さんも、関わりたくないと思いますか……?」

恐る恐る聞くと、笠木さんは私の不安を笑い飛ばした。

「お嬢様がどんな人か知ってるのに、今さら見た目で判断したりするかよ」

すると、涙が静かに頬を伝った。

「お、お嬢様?」

私が急に泣いてしまったせいで、笠木さんは動揺を見せる。

私は急いで涙を拭う。

「……ごめんなさい、なんでもないです。今日はありがとうございました。失礼します」

笠木さんに深堀される前に、その場から逃げ出した。



家に帰ると、早速出迎えてくれた奈子さんに驚かれた。

「お嬢様、その髪はどうされたんですか!?」

奈子さんの大声で、柳まで玄関に来た。驚きすぎの柳は壁によろけた。

「似合わない、かな」

顔が上げられない。俯くことで、赤色の毛先が目に入る。

「似合う似合わないの問題ではありません!」

柳に怒鳴られ、肩をすくめる。

しかし柳の言う通り、似合う似合わないの問題ではない。

そんなことは初めからわかっていた。わかっていた上で、私は髪を染めたのだ。

「小野寺家のお嬢様が、そんな、不良みたいなことをなさるなど、言語道断!どうしてそんなことを!」

ここまで否定されると、反抗したくなってくる。

だが、今反抗していいわけがない。

「旦那様にご報告させていただきます」
「それは……!」

やめてほしい、なんて言えなかった。

「もし今の学校に通っていることが原因なのであれば、転校も考えていただきます!」

柳はそう言い捨てると、奥に行ってしまった。

不思議と力なく笑ってしまう。

「……やっぱりダメかあ……」

ため息をつくと同時に、座り込む。

赤くなった毛先をつまみ、電気にかざす。
色素がなくなった毛先は綺麗な赤色になっている。

奈子さんは私の横に膝をついて座った。

「お嬢様、どうして髪を染められたのですか?」

柳とは違って、奈子さんは優しい声で聞いてくる。

「……染めてみたいなって思ったの。毛先だけなら切れば済むし、この土日だけならいいかなって」

笑って誤魔化そうとするけど、奈子さんの不安そうな顔は変わらない。

居心地悪くなって、部屋に逃げる。

枕に顔をうずめて思いっきり叫ぶ。

似合ってると言ってほしかったわけではない。ただあそこまで否定されたくなかった。

そのとき、メッセージが届いた。送り主は瑞希ちゃんだ。

『髪はどんな感じになった?』

言葉で説明するより写真を撮ったほうが早いと思い、内カメラにして写真を撮る。

『いい色だね』

その写真を送ると、そんなメッセージが返ってきた。やっと褒め言葉が聞けて、なぜか安心した。

『日曜、楽しみにしてる』

私も楽しみだと返事をしようとしたとき、誰かがドアを叩いた。