美容師さんは私にカットケープをつけながら、そんなことを聞いてきた。

鏡越しに目が合う。

「赤を選んだのも、玲生でしょ」

どこまでバレているんだ。そんなにわかりやすい反応をしていたということか。

「いいなあ。青春だね」

笠木さんに聞かれているのではないかと思って笠木さんを盗み見ると、美容師さんはすっと私の耳元に顔を近付けた。

「玲生は鈍いから大丈夫」

そして私の肩を数回叩いた。

笠木さんに知られたくないのは確かだが、気付かれてはいけないのは、笠木さんだけではない。

柳にも、お父様にも気付かれてはいけない。

もし気付かれたら、きっとすぐに転校させられてしまう。

それだけは絶対に嫌だ。

「それにしても、なんでこんな中途半端な時期に髪を染めようなんて思ったの?」

もっともな質問だ。まだ長期休みでもないのに染めるのは、誰だって妙だと思う。

「笠木さんにやりたいと思ったら、すぐに行動に移そうって言われましたので」
「玲生に悪影響されちゃった?」

その悪い笑みを見ると、笠木さんが悪く言われているような気がしてくる。

「玲生はよくも悪くも自由だからね。毒されすぎないよう気をつけてね」

それ以上会話をしたくないと思ったけど、彼女は仕事に集中して、お互い静かになった。

一束で毛先だけということで、一時間程度で終わった。

「どうかな?薄めにしてみたけど」

左側の毛先だけ、赤くなっている。見たことのない色に、違和感を覚える。

「玲生。どう?」

私が感想を言わなかったことで、美容師さんは笠木さんを呼んだ。

笠木さんが鏡越しに私を見た。何を言われるのかと怖くなって、目を伏せる。

「うん、悪くない」

似合ってるではなく、悪くない。

それでも、褒め言葉に変わりないと思うと嬉しくて、振り返った。

「本当ですか……?」

笠木さんは私の前まで歩いてきて、優しく私の頭に手を置いた。

「本当だから、安心しろ」

笠木さんが手を離すと、もう一度鏡を見る。

笠木さんが悪くないと言ってくれたことで、自分でも赤色にしてよかったと思えた。

会計を終え、店を後にする。

外を歩いているとすれ違う人に見られているような気がして、私は顔を伏せた。

「金髪の隣に赤く染めた女。関わりたくないって思われてるだろうな」

私の思いとは裏腹に、笠木さんは楽しそうだ。