そしてまたドアを叩く音が聞こえた。

叩いた人と用件がわかっているから、また返事をせずにドアを開ける。

「お嬢様。お風呂の準備ができました。ゆっくり温まってきてください」
「ありがとう」

それから私はお風呂に入り、そのまま眠りについた。



翌朝、学校に行く途中、偶然由依ちゃんと出会った。

「おはよう、円香ちゃん」
「おはようございます」

挨拶を交わしただけだが、自然と笑顔になる。

「円香ちゃん、本当に笑顔が増えたね。なんだか、私まで嬉しくなっちゃう」

隣を歩く由依ちゃんは、照れ笑いを見せる。

由依ちゃんが笑うと嬉しくなるのは、私も同じだ。

由依ちゃんだけではない。瑞希ちゃんも、笠木さんも。

私は本当に、彼女たちといられるこの場が、この時間が好きだ。

「私も、嬉しい」

すると、由依ちゃんは立ち止まった。それにつられるように、私も足を止める。

由依ちゃんは私の手を取った。

「円香ちゃん、今敬語じゃなかった!」

無意識だった。少し前までなら怒られていたのに、今ではこれほど喜んでもらえるとは、不思議なものだ。

「やっぱり、敬語じゃないほうが距離がないような感じがするから、いいよね」

由依ちゃんはスキップでもしそうなくらい軽い足取りで、校門をくぐる。

敬語じゃないほうが、と言われても、長年染み付いた癖はそう簡単には崩せない。

「あ、でも」

由依ちゃんは体の向きを変える。

「無理して砕けた話し方してほしいわけじゃないからね。私も瑞希も、円香ちゃんの敬語、嫌いじゃないし。ちゃんと距離が縮まってるってわかってるから」

私の考えていることがバレていたみたいで、恥ずかしい。

けれど、それよりも私たちの距離が縮まってると言ってもらえて嬉しかった。

「早く行こう」

由依ちゃんは戻ってきて、私の手を引いた。

教室に着き、他愛もない会話をする。

そのとき、笠木さんが校舎に向かって歩いているのが目に入った。

「円香ちゃん、本当に笠木くんが好きなんだね」

そう言われて由依ちゃんのほうを見る。

そんなにわかりやすい行動を取っただろうか。

「全部顔に出てるよ」

昨日、奈子さんにも顔に出ていると指摘された。正直、自分の表情筋は死んでいると思っていたから、恥ずかしいようで嬉しかった。

窓の外に視線を戻したときには、笠木さんの姿はなかった。だけど、そのまま外を眺める。

「……あの、私、何色が似合うと思いますか?」
「ん?何の話?」

由依ちゃんの戸惑う声で、自分が何を質問したのか思い返す。