どうして、笠木さんに出会ってしまったのだろう。どうして、笠木さんを好きになってしまったのだろう。

悪いことをしたわけではないのに。私がお金持ちの娘というだけで、普通の恋愛ができないなんて。

いや、そんなの、今さらだ。

前からわかっていたこと。わかって、いた。

それでも、笠木さんへの想いを失うことはもうできない。

やりたいことを我慢するのは、好きじゃない。

笠木さんはそう言っていた。

笠木さんが自由にできるように、私だって自由になりたい。笠木さんを好きでいたい。

だけど、その気持ちを殺すためにシーツを強く握りしめる。

そのとき、ノックの音がした。

返事をする気力もなく、自分からドアを開けた。立っていたのは柳だった。

「お嬢様、夕飯の支度が……お嬢様、大丈夫ですか!」

よほど酷い顔をしていたのか、柳が慌てた顔をしている。

「……寝たら治ると思うから、悪いけど、今日はご飯は……」
「気になさらないでください。すぐにお風呂の準備をしてきます」

私が最後まで言い切る前に、柳が言った。

そして柳は軽く頭を下げ、走っていってしまった。

また部屋にこもろうと、ドアを閉めていると、お父様が廊下を歩いてきた。

気付いたのにドアを閉めるわけにもいかず、部屋から出る。

「おかえりなさい、お父様」

お父様は私の顔を凝視している。なんだか怖くて、目をつむる。

「顔色がよくない。慣れない環境で疲れているのか?戻りたいなら、いつでも言いなさい」

そういう結論に至るのか。

いや、仕方ないことだ。お父様は、どうして私が今の学校に通っているのかを知らない。

疲れたのは、今までいた環境だ。

今は全くもって疲れることはなく、むしろ楽しい。

笠木さんや由依ちゃん、瑞希ちゃんと過ごせる環境を、自ら手離すようなことはしたくない。

いずれ離れ離れになってしまうことはわかっている。

せめて、卒業するまで。それまでは、笠木さんを好きでいることを許してほしい。

「私は……」

そういう内容を言い返そうと前を向くと、お父様の姿はなかった。

相変わらず、私に興味がないのだと思い知らされる。

脱力し、ドアに体重を預ける。

私は、この世界に向いていない。笠木さんの隣にいることが、由依ちゃんたちと話しているときが、一番私らしくいられるのかもしれない。

家にいると、疲れる。

部屋に戻り、カバンからスマホを取り出した。

由依ちゃんと撮った写真を見返す。瑞希ちゃんは写真が嫌いだからと、私たちの写真をひたすら撮ってくれていた。

それを見ていたら、少しずつ嫌な気分が晴れていった。