休み時間、笠木さんに話を聞きたかったのに、笠木さんを見つけられずに話せずにいた。

結局放課後になり、校舎を歩き回って笠木さんを探す。

「転校してきて結構経つのに、また迷子か?」

頭上から笠木さんの声がし、当たりを見渡す。笠木さんはどこにもいない。

だけど、そこは笠木さんと初めて出会った場所で、まさかと思い木の下に移動する。

「そこにいらしたのですね」
「なんだ、俺を探してたのか」

笠木さんに手で少し離れるよう言われ、何歩か後ろに下がる。私がいた場所に笠木さんが降りてきた。

「朝は俺を待ってて、放課後は俺を探して……お嬢様ってのは暇なのか?」

意地悪を言われているはずなのに、目の前に笠木さんがいることが嬉しくて、全く気にならなかった。

「笠木さんにお尋ねしたいことがあるのです」

今は二人きりで、聞きたいことを聞くチャンスだと思った。

だけど、どう質問していいのかわからない。

「……汐里さんに聞いた。俺が病気かってやつだろ?」

はっきり聞くことも、曖昧に聞くことも出来ないと思っていたところ、笠木さんが先に言ってくれた。

私は頷いて、変に緊張しながらその答えを待つ。

「……違うよ」

その返答に喜びを覚えたが、笠木さんの表情があまりに切なそうで、それが信じられなかった。

ちょうど横から風が吹いてきて、髪がなびく。笠木さんの表情は見えにくくなってしまった。

私の髪も風に煽られ、髪を押さえながら俯く。

「……本当、ですか?」
「ここで嘘ついても意味ないと思うけど。でもまあ、お嬢様が俺を病気にしたいなら、そう思われても仕方ないか?」

そういうつもりではないし、むしろ健康でいてほしい。

首を横に振って否定する。

「朝、言っただろ」

笠木さんが私の髪にそっと触れ、私は顔を上げた。笠木さんとの距離の近さに思わず目を逸らす。

「俺は元気だって」
「そう、ですね」

心臓の音がうるさくなっていく。

笠木さんと一緒にいることができて嬉しいはずなのに、どうすればいいのかわからなくなってくる。

それが伝わったのか、笠木さんは手を離してくれた。

「話はそれだけか?」
「はい……あ、いや」

もう少し一緒にいたいと思って引き止めたものの、話す内容がない。それなのに、笠木さんは私が話すのを待ってくれている。

なにか、笠木さんに話したいこと……

「……髪を、染めてみたい……」

笠木さんの金髪が目に入り、そう呟いた。

笠木さんの表情が固まり、そして声を上げて笑った。

「本気か?お嬢様」

自分で言っておきながらなんだが、自分でもそう思う。