週末明けの月曜日、早めに学校に行き、昇降口で笠木さんを待つ。

来なかったらどうしようとか、遅刻気味に来るのではとか、不安点はいくつかあったけれど、不思議と待つことは苦ではなかった。

待っている間、何人もの生徒に不審がられたけど、それでも笠木さんを待った。

「あれ、えん?どうしたの?」

遅刻気味にやって来たのは、瑞希ちゃんだった。

「……おはようございます、瑞希ちゃん。今日こそは笠木さんが登校すると聞いていたので、待っていたのですが……」
「来なかったんだ」

頷くと同時に、俯く。すると、瑞希ちゃん以外の靴が目に入った。

「遅刻する気か?お嬢様」

私をお嬢様と呼ぶのは、この学校では一人しかいない。

私は勢いよく顔を上げる。そこには、待ち望んだ笠木さんが立っている。

泣きたくなるほど嬉しくて、笠木さんに抱きつきたい衝動に駆られた。だけど、その思いをぐっと堪える。

「えんはあんたを待ってたのに、その態度はなくない?てか、お嬢様ってなに」

私が笠木さんに声をかけるより先に、瑞希ちゃんが文句を並べた。最後の質問に、私が動揺してしまう。

「言動がお嬢様っぽいからそう呼んでるだけ。お前がえんって呼んでるのと同じようなもん」

汐里先生にはすぐに話してしまったのに、なぜか瑞希ちゃんには誤魔化した。その違いがよくわからないけれど、私は胸を撫で下ろす。

「笠木さん、お元気そうでよかったです。久しくお見かけしませんでしたので」

自然と笠木さんと話せていることに安心する。

「俺は元気だよ。てか、そんなことで待ってたのか」

笠木さんは無自覚だろうけど、優しく微笑んだ。それを見ると、私まで嬉しくなる。

「……はい」

瑞希ちゃんが私と笠木さんの顔を交互に見ている。それが気になってしまい、笠木さんに病気のことを聞くのは諦める。

「瑞希ちゃん、どうかしましたか?」
「笠木が笑ったり、えんがめちゃくちゃ可愛かったりって、頭が追いつかないんだけど」

笠木さんの笑顔が素敵なことは知っていたけど、私のことまで言われるなんて。

正直、ずっと愛想笑いばかりだったから、そう言ってもらえるのは嬉しい。変わっていると言ってもらったようなものだ。

「俺だって笑うことくらいある」

笠木さんは不機嫌そうにそれだけを言うと、上履きに履き替えて行ってしまった。

「私たちも教室に行こっか」
「そうですね」

本当に遅刻ギリギリだったらしく、席に着いた瞬間にチャイムが鳴った。瑞希ちゃんと目を合わせ、間に合ってよかったと笑いあった。