「そうじゃなくて……」

汐里さんは否定したが、なんだか泣きそうな声に聞こえた。

俺の声、そんなに怒っているように聞こえたのか?いや、だとしてもそれくらいで泣くような人ではないはずだ。

「……玲生くんが病気じゃないって、私がそう思い込みたいってことなんじゃないかって……」

それを聞くと、汐里さんのことを責められなくなった。

病気じゃないなんて、俺だって思いたい。

嘘だって。本当はもっと長く生きられるって。

病は気からと聞くが、そう願うだけで病が治るなら、どれだけいいか。

なんて、あの言葉は悪化させないように、ポジティブに考えろって意味だろうけど。なにより、それで病気が治れば、医者はいらないということになってしまう。

……いや、今そんなことはどうでもいいんだよ。

「そう思ったら、玲生くんが病気じゃないって、嘘つけなかった」

何を言っていいのかわからなくなって、ドアに背中を預けて床に座る。

言える嘘と、言えない嘘。

そんなこと、考えたこともなかった。

俺が頼んでいたせいで、汐里さんをさらにつらい思いをさせてしまったのか。

「汐里さん、ごめんね」
「え?どうして玲生くんが謝るの?」

たしかに、今の話の流れで俺が謝るのは変だったな。

「あ、でも、肯定したわけでもないの。ただ、黙ってただけで……だから、本当にバレたかどうかはわからない」

それを聞いて、汐里さんが最初にバレたかもって言った理由がわかった。

疑われているだけだとわかって、少し安心した。

それなら、約束を破ってない。

「俺が病気だって断言してないなら、いいよ」
「本当?玲生くん、怒ってない?」

電話越しなのに、汐里さんがどういう表情で言っているのか簡単に想像ついた。

それがなんだかおかしくて、笑ってしまった。

「怒ってないよ。お嬢様に何か聞かれたら、俺が誤魔化すから」

お嬢様は俺が病気かどうかなんて、どうでもいいかもしれないが。

もしものためにも、適当な嘘を考えておいたほうがよさそうだ。

「それが……小野寺さんだけじゃなくて、小野寺さんと同じクラスの、坂野さんと東雲さんも……」

汐里さんの声は小さかった。今度こそ怒られると思ったのか。

しかし俺は呆れてため息が出る。

坂野と、東雲か……なんて、名前だけ教えられてもどこの誰だか知らないが。

「……報告どうも」

俺は電話を切り、電気を見上げる。

面倒なことになりそうだ。