「でも、元気そうでよかったよ。電話かけても切られちゃったし」
「悪かったと思ってるよ」

反省はしてないが。

「学校は来れそう?」

汐里さんは誰よりも早く、母さんの料理に手を伸ばした。

「……また倒れたりしたら嫌だし、今週は休もうと思ってる」
「ま、私もそれがいいと思うよ」

野菜炒めを口に含んで、幸せそうに笑った。

そして俺たちは三人で食卓を囲んだ。



二日後の夕方、俺はスマホのバイブ音で目が覚めた。

あの日から、俺はほとんどを寝て過ごしていたのだ。

電話をかけてきたのは、汐里さんだ。

「……はい」
「玲生くん、ごめん!」

寝起きでいきなり大声を聞くのは、機械越しでもきつい。

すっかり目が覚めて、体を起こす。

「ごめんって、なにが?」

日が暮れた部屋は、電気をつけないと何も見えないくらい暗くなっていた。ベッドから降りると、電気のスイッチを押す。

「小野寺さんたちに、病気のことバレたかも」
「……は?」

汐里さんの言葉を、冷静に考える。

小野寺さん。つまり、お嬢様か。

バレたって、なにが?病気?それは、俺の?

「……なんで?」
「今日、小野寺さんがなんで玲生くんが学校に来ないの?って聞きに来て、いつも通り、恵実さんのお見舞いってことにしたんだけど……」

それは、俺が頼んだことだった。俺の休む理由聞いてくる人はいないだろうけど、病院で俺を見かける人はいるかもしれない。

だから、もし聞かれたらそういうことにしてくれ、と。つまり、病気のことは隠したかった。

そう、頼んだはずなのに。

「高校に通うことが玲生くんの夢だったって話したら、いろいろあって、玲生くんは病気なの?って」

そのいろいろが聞きたい。そもそも、どうして俺が高校に通うことが夢だったっていう話になったんだ。

いや、一つも間違っていないが。

入院が長引いたりすると、学校に通うことが出来ない日が多くなっていた。

俺は学校は嫌いじゃなかったから、少しでも長く学校にいたくて、無理を言って今の学校に通っている。

それを、汐里さんは知っていた。

「私……違うって言えなかった」

そこは言ってくれ。

「……嘘つくのが嫌だったとか言わないよね?」

母さんが入院しているってことは間違いなく嘘だから、その理由はありえないだろうけど。