君への愛は嘘で紡ぐ

俺たちはチェックアウトの準備をして部屋を出ると、旅館にある売店でお菓子を買った。

「これからどうする?どこか行く?」

車に乗ると、母さんはシートベルトをしながら聞いてきた。

「母さんはどうしたい?」

俺は母さんとゆっくり過ごすのも、どこかに出かけるのも、どちらでもよかった。

だから聞き返したが、母さんはそれが気に食わなかったらしい。

「玲生がやりたいことやろうよ」
「じゃあ……もう少し母さんとどこかに行ってみたい、かな」

ゆっくりする時間は、多分これからいっぱいある。母さんと出かけるのは、きっと、今しかできない。

「了解。どこがいいかなあ」

母さんは楽しそうに、この旅館の近くに何があるのか調べる。俺もスマホを取り出して検索してみる。

「いいところありそう?」

すると、母さんが俺の隣に座って画面を覗き込んできた。

母さんも見つけられず、探すのを諦めたらしい。

「微妙」
「じゃあ、いいところがないか、女将さんたちに聞いてくる」

母さんは車を降りて、旅館に戻っていった。

「この近くに商店街があって、コロッケが美味しいところがあるんだって。行ってみる?」

母さんはすぐに戻ってきた。

「いいね、コロッケ」

歩いて行けるということで、旅館側に許可を取り、車を置いて商店街に向かう。

「ねえ、玲生。昨日少し考えたんだけど……」

亀のようなスピードで歩いていたら、母さんが急に言った。

「恋人は作らないにしても、好きな人がいるくらいはいいんじゃないかな」

いろいろと話した中で、その話題の続きをされるとは思わなかった。

「……なんで?」
「好きな人がいるってだけでも、世界が変わるもん」

そう言って母さんは、学校でよく見かける女子と同じように楽しそうだ。

「……つまり、お嬢様を好きになってもいいと?」

二、三回首を縦に振られた。

「別に、そのお嬢様じゃなきゃいけないってわけじゃないけどね」

どう答えていいか迷っているうちに教えてもらった揚げ物屋に着いた。本当に近かった。

コロッケを二つ注文し、揚げたてを受け取る。

それを食べているときも帰るときも、母さんの言葉が頭から離れなかった。

商店街を歩きながら母さんが話しかけてきたが、どれも曖昧に返してしまった。

俺は、誰かを好きになると、相手に何かを求めてしまうような気がして、怖くてそういうことには関わらないようにしてきた。

相手が自分の想いに応えてくれたら、相手も同じように俺のことを好きになってくれたら、先にいなくなってしまう俺は、相手を残してしまう。

きっと、深く傷つけてしまう。

俺は、それが嫌だ。