その日のうちに退院し、旅行の準備を始めた。
「……母さん、旅行に行く金、あるのか?」
準備しているとき、ふと思った。
俺の入院費、治療費はかなりするはず。父さんがいないうちは、かなり経済状況が厳しいと思う。
「もしあれなら、俺のバイト代……」
「やめてよ、玲生。そんな心配しないで、純粋に楽しみたいの」
旅行カバンに着替えを詰め込んでいる母さんは、頬を膨らませている。
たしかに、楽しいことに水を差すようなことを聞いたかもしれない。
それでも、気になるものは気になる。
「……一泊だけし、県内だもん。そんなにかからないよ」
そんな俺に気付いたのか、母さんは不服そうに、小声で教えてくれた。
「……そっか」
言いたくないことを言わせてしまい、無性に謝りたくなった。でも、絶対に謝ったらいけないように思った。
「楽しい旅行にしような」
母さんは子供のような笑顔を見せた。
◇
翌朝、母さんの運転する車に乗り、予約した旅館に移動する。
運転中の母さんは車内に流れる曲を口ずさんでいる。
楽しそうでよかった。
母さんは、俺が病気になったと、二十歳まで生きられないと知ってから、いつも元気がなかった。
中学生になってからは急に環境が変わったこともあって、母さんに八つ当たりをするようになった。
どうして俺が病気なんだ。こんなに苦しまないといけないんだ。生まれてこなきゃよかった。
相当酷いことを母さんに言ってきた。
そのうち通院生活も慣れてきて、二十歳まで生きられないという現実も受け入れられた。
それでも、母さんに対する態度はあまり改善されなかった。
高校受験をするとき、やっと母さんの言葉を聞いて三年間の言動を反省したけど、後悔するには遅すぎた。
「玲生の人生だもん。玲生が好きなように生きたらいい。ただ、自分を苦しめるようなことはしないでね」
ごめんと謝ることも出来なかった。
それから俺はバイトを始めたり、髪を染めたり、自由に遊んだりと母さんとの時間をないがしろにしていた。
どこまでも親不孝者だ。昨日みたいに母さんに言われないと気付けない。
お嬢様に説教できた立場じゃなかった。
「ちょっと玲生ー?どうしてそんなに暗い顔してるのー」
ちょうど信号で車が停まったらしく、母さんは俺の頬に指を突き刺した。
「……昔の自分がどれだけ愚かだったか思い返してただけ」
「……母さん、旅行に行く金、あるのか?」
準備しているとき、ふと思った。
俺の入院費、治療費はかなりするはず。父さんがいないうちは、かなり経済状況が厳しいと思う。
「もしあれなら、俺のバイト代……」
「やめてよ、玲生。そんな心配しないで、純粋に楽しみたいの」
旅行カバンに着替えを詰め込んでいる母さんは、頬を膨らませている。
たしかに、楽しいことに水を差すようなことを聞いたかもしれない。
それでも、気になるものは気になる。
「……一泊だけし、県内だもん。そんなにかからないよ」
そんな俺に気付いたのか、母さんは不服そうに、小声で教えてくれた。
「……そっか」
言いたくないことを言わせてしまい、無性に謝りたくなった。でも、絶対に謝ったらいけないように思った。
「楽しい旅行にしような」
母さんは子供のような笑顔を見せた。
◇
翌朝、母さんの運転する車に乗り、予約した旅館に移動する。
運転中の母さんは車内に流れる曲を口ずさんでいる。
楽しそうでよかった。
母さんは、俺が病気になったと、二十歳まで生きられないと知ってから、いつも元気がなかった。
中学生になってからは急に環境が変わったこともあって、母さんに八つ当たりをするようになった。
どうして俺が病気なんだ。こんなに苦しまないといけないんだ。生まれてこなきゃよかった。
相当酷いことを母さんに言ってきた。
そのうち通院生活も慣れてきて、二十歳まで生きられないという現実も受け入れられた。
それでも、母さんに対する態度はあまり改善されなかった。
高校受験をするとき、やっと母さんの言葉を聞いて三年間の言動を反省したけど、後悔するには遅すぎた。
「玲生の人生だもん。玲生が好きなように生きたらいい。ただ、自分を苦しめるようなことはしないでね」
ごめんと謝ることも出来なかった。
それから俺はバイトを始めたり、髪を染めたり、自由に遊んだりと母さんとの時間をないがしろにしていた。
どこまでも親不孝者だ。昨日みたいに母さんに言われないと気付けない。
お嬢様に説教できた立場じゃなかった。
「ちょっと玲生ー?どうしてそんなに暗い顔してるのー」
ちょうど信号で車が停まったらしく、母さんは俺の頬に指を突き刺した。
「……昔の自分がどれだけ愚かだったか思い返してただけ」