◆
「おかえり……て、玲生くん大丈夫?顔色が……」
お嬢様と話して戻ってくると、汐里さんが心配そうに聞いてくる。
平気だと言いたかったが、痩せ我慢をしてもいいことなんかない。
「ちょっと車で休んでくる……」
そして汐里さんから車の鍵を受け取ろうとしたとき。
「玲生くん!」
視界が歪み、地面に手を着いた。
「玲生くん、今日はもう……」
汐里さんは語尾を濁したが、その続きはなんとなくわかる。
もう、帰ろう。
無理をしてでもここにいて、自由な時間を短くするつもりはない。
「……わかった」
俺は汐里さんに支えられながら車に乗った。汐里さんは残っていた売り物を全て持ってきて、車を出発させる。
そのとき、美花と話しているお嬢様が目に入った。
「やべ、お嬢様……」
あれだけ悩んでいたお嬢様を、置いてきてしまった。
「隣にいた人に、小野寺さんに伝言を託けてきた。小野寺さんには申し訳ないけど、私は玲生くんを送り届けるほうを優先する」
汐里さんが俺を優先する理由を知っているからこそ、何も言えなかった。
「さ、着いたよ」
汐里さんがドアを開けてくれ、手を差し出す。それを支えにしてアパートの階段を上っていく。
そして家の中に入った途端、気が緩んだのか、俺は倒れてしまった。
◇
目が覚めると病院のベッドの上で、一日経っていた。
母さんはそばにある丸椅子に座り、ベッドにうつ伏せになっていた。
「……母さん、起きて」
肩を揺すって母さんを起こすと、俺の顔を見るなり、目を潤ませた。酷く安心した顔に、申しわけなさが込み上げてくる。
「玲生……よかった……」
母さんは俺の手を握った。
「本当、よかった……」
一粒の涙が頬に落ちるが、それをすぐに拭った。
「先生、呼んでくるね」
笑顔を見せると、医師を呼びに病室を出た。すぐに先生と戻ってきたが、母さんは飲み物を買いに行ってしまった。
「無理は禁物だって言っていたはずだが?」
検査をしながら、担当医の中條先生が責めるように言ってきた。
「別に、無理したわけじゃない」
「ならいいけど。あまり周りに心配かけるようなことはするなよ」
その検査が終わり、中條先生と入れ違うように母さんが帰ってきた。
俺に飲み物を渡した母さんは、椅子の上で黙り込んだ。だけど、俺の手を強く握っている。
「ねえ、玲生……そろそろ、治療に集中しない……?玲生のためになると思ってあまり言わないで来たけど……こんなことが続くなら、私の寿命縮んじゃう……」
何も言えなかった。
俺が倒れるのは、今回が初めてではない。
原因もきちんとわかっている。
だからこそ、母さんの気持ちが痛いほど伝わってくる。
だが、俺にだって譲れないものがある。
そっと母さんの手に左手を重ねる。
「……ごめん、母さん。大人しく死ぬときを待つのは嫌なんだ」
母さんは声を殺して涙を流す。
「おかえり……て、玲生くん大丈夫?顔色が……」
お嬢様と話して戻ってくると、汐里さんが心配そうに聞いてくる。
平気だと言いたかったが、痩せ我慢をしてもいいことなんかない。
「ちょっと車で休んでくる……」
そして汐里さんから車の鍵を受け取ろうとしたとき。
「玲生くん!」
視界が歪み、地面に手を着いた。
「玲生くん、今日はもう……」
汐里さんは語尾を濁したが、その続きはなんとなくわかる。
もう、帰ろう。
無理をしてでもここにいて、自由な時間を短くするつもりはない。
「……わかった」
俺は汐里さんに支えられながら車に乗った。汐里さんは残っていた売り物を全て持ってきて、車を出発させる。
そのとき、美花と話しているお嬢様が目に入った。
「やべ、お嬢様……」
あれだけ悩んでいたお嬢様を、置いてきてしまった。
「隣にいた人に、小野寺さんに伝言を託けてきた。小野寺さんには申し訳ないけど、私は玲生くんを送り届けるほうを優先する」
汐里さんが俺を優先する理由を知っているからこそ、何も言えなかった。
「さ、着いたよ」
汐里さんがドアを開けてくれ、手を差し出す。それを支えにしてアパートの階段を上っていく。
そして家の中に入った途端、気が緩んだのか、俺は倒れてしまった。
◇
目が覚めると病院のベッドの上で、一日経っていた。
母さんはそばにある丸椅子に座り、ベッドにうつ伏せになっていた。
「……母さん、起きて」
肩を揺すって母さんを起こすと、俺の顔を見るなり、目を潤ませた。酷く安心した顔に、申しわけなさが込み上げてくる。
「玲生……よかった……」
母さんは俺の手を握った。
「本当、よかった……」
一粒の涙が頬に落ちるが、それをすぐに拭った。
「先生、呼んでくるね」
笑顔を見せると、医師を呼びに病室を出た。すぐに先生と戻ってきたが、母さんは飲み物を買いに行ってしまった。
「無理は禁物だって言っていたはずだが?」
検査をしながら、担当医の中條先生が責めるように言ってきた。
「別に、無理したわけじゃない」
「ならいいけど。あまり周りに心配かけるようなことはするなよ」
その検査が終わり、中條先生と入れ違うように母さんが帰ってきた。
俺に飲み物を渡した母さんは、椅子の上で黙り込んだ。だけど、俺の手を強く握っている。
「ねえ、玲生……そろそろ、治療に集中しない……?玲生のためになると思ってあまり言わないで来たけど……こんなことが続くなら、私の寿命縮んじゃう……」
何も言えなかった。
俺が倒れるのは、今回が初めてではない。
原因もきちんとわかっている。
だからこそ、母さんの気持ちが痛いほど伝わってくる。
だが、俺にだって譲れないものがある。
そっと母さんの手に左手を重ねる。
「……ごめん、母さん。大人しく死ぬときを待つのは嫌なんだ」
母さんは声を殺して涙を流す。