最後に入った瑞希ちゃんがドアを閉める。

「お久しぶりです」

汐里先生は私たちを見て、不思議そうにしている。

「体調が悪いとか、怪我をしてる人、ではないよね。どうしたの?」

私一人であればそう思われることはなかったかもしれない。だが、今日は瑞希ちゃんたちが一緒だ。

本来の意味で保健室に来たと思われてもおかしくない。

「あの……笠木さんがどうして休んでいるのかを聞きたくて……」
「玲生くん?そっか……」

先生は気まずそうに目を逸らした。

知っているが、言えないということだろうか。

「悪いことしてるから言えないとか?」

私と先生の間に気まずい空気が流れているのを、瑞希ちゃんの独り言が打ち消した。

「瑞希、本当にやめて」

瑞希ちゃんの遠慮のない言葉に由依ちゃんが慌てている。

先生は小さな声で笑った。

「実は、そうなの」

言葉が出なかった。信じたくない。

「玲生くん、学校サボってるんだよね。学校以上に大事なことがあるって」

笑いながら言うことではないと思う。

「……女だ」
「違う違う」

先生は笑いながらすぐに否定した。瑞希ちゃんの態度に、由依ちゃんは頭を抱えている。

「……いや、間違ってないかも」

自然とカバンを持つ手に力がこもる。

恵実(めぐみ)さん……玲生くんのお母さん、今入院してて。だから玲生くん、学校サボってお見舞いとかに行ってるの」

先生の言う女性が私の想像したような人物ではなくて、私は胸をなで下ろした。

それと同時に、あまりに不謹慎なことを思った自分に吐き気がした。

「じゃあ、笠木くんは元気なんですね」

由依ちゃんが安心したような声で言った。

「うん。元気、元気。恵実さんももうすぐ退院できるらしいから、週明けには登校してくるんじゃないかな」

まだ笠木さんに会えたわけではないのに、心が晴れていくような感じがした。

「でも、どうしてそんなことを聞きに来たの?」

先生がそう質問すると、由依ちゃんと瑞希ちゃんは私のほうを見てきた。

二人が聞きたくて来たのではないから、そうなるだろうが、見られても答えようがない。

素直に言えばいいだけの話なのかもしれないが、友達に話すのと先生、増してや笠木さんのいとこに話すのはわけが違う。

「……最近見かけず、どうされているのか気になりましたので」

嘘ではない。どうして気になるのか、と聞かれたら逃げようがないが。
 
「そっか。でもね、小野寺さん。玲生くんが学校に来ないのはよくあることだから、そんなに気にしなくてもいいよ」

先生は私を慰めるためか、頭を軽く叩いた。