二人の反応が怖くて、目が開けられない。

「笠木って……笠木玲生?」

瑞希ちゃんの戸惑った声が聞こえる。

「円香ちゃん、本当に?」

由依ちゃんは静かに確認をしてくる。

黙って頷く。

驚かれるのはわかっていた。あとは、反対されるだろうか。

「笠木ね……なんで?」

この質問も、覚悟のうちだ。

「笠木さんは、私に寂しいという感情を思い出させてくれました。笠木さんの笑顔を思い浮かべるだけで、心が温まるんです」

あの日の笠木さんの笑顔が、ずっと頭から離れなくて。だけど、それは私の心を温もりで満たしてくれた。穏やかな気持ちになった。

「これが好きという気持ちなのかわかりませんでしたが、由依ちゃんと話して、初めて実感したというか……」

瑞希ちゃんの拘束から解放されていても机の上に出していた手に、由依ちゃんが手を重ねてきた。

「私たちが知らない一面を見たんだね。勇気を出して話してくれて、ありがとう」

顔を上げ、由依ちゃんの顔を見つめる。

否定、されなかった。

それだけのことなのに、自分でも信じられないくらい、嬉しかった。

「たしかに、この一週間、笠木見かけないね。悪いことしてたりして」
「ちょっと、瑞希!」

瑞希ちゃんの笠木さんに対する印象は変わらないらしい。

当然といえば当然だろう。

私だけが彼の笑顔や優しさを見た。話を聞いただけで、瑞希ちゃんたちの想像する笠木さん像が変わるはずがない。

「今日、汐里先生に笠木さんの様子を聞いてくるつもりです。私は、瑞希ちゃんが仰るようなことはしていないと信じていますから」

拗ねたような言い方をしてしまった。

瑞希ちゃんたちはそんな私の言い方など気にせず、顔を見合わせている。

「シオリなんて先生いたっけ?」
「さあ……」

気になった点はそこかとツッコミたくなる。

「……保健室の先生ですよ。笠木さんのいとこだそうです」

二人は納得した表情を見せると、すぐに目を見開いた。動きというか、表情があまりにシンクロしていて、思わず笑ってしまう。

「笠木のいとこ……気になる」
「保健室なんてそんなに使わないから、見かけたことないよね」
「よし。えん、私たちもついて行こう」

ただの興味本位だろう。それでも私がダメだと言う権利はない。

「……わかりました」

放課後になると、私たちは保健室に向かった。

体調不良で訪れたわけではないため、躊躇いながらノックをする。中から先生の返事が聞こえ、ドアを開ける。

「小野寺さん。久しぶりだね」