翌日、笠木さんは学校を休んだ。

それだけでなく、今週は笠木さんの姿を見なかった。

「円香ちゃん、日に日に元気なくなってくけど、大丈夫?」

由依ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

笠木さんに言われたことを胸に、由依ちゃんと会話をするようにしていたら、ぐっと距離が縮まった。

それでも敬語は私の癖のようなもので、変わらなかった。

「何かあったなら、話聞くよ?」

いくら距離が縮まっても、笠木さんのことは話せないでいた。

由依ちゃんだけでなく、瑞希ちゃんも笠木さんのことをよく思っていない。また笠木さんのことが悪く言われるのは嫌で、言えなかった。

「由依ちゃんは、長い間会えないと寂しいと思う人がいますか?」
「え?いるけど……」

会話の流れを作らずに質問をしたせいか、由依ちゃんは首を傾げながら答えてくれた。

「では」
「瑞希と、円香ちゃん。大切な人に会えなかったら、寂しいよね」

さらに質問を重ねようとすると、先に由依ちゃんが話し始めてしまった。

「大切な、人……」

つまり私は、笠木さんのことが、大切……?

「なになに、えん、好きな奴でもできた?」

飲み物を買いに行っていた瑞希ちゃんは、戻ってくるなりとんでもないことを言ってくれる。

私は顔が熱くなる。

「からかうつもりで言ったんだけど……もしかして、ガチ?」

両手で顔を覆う。

私の顔が見たいのか、瑞希ちゃんは手をどかそうとする。

「え、え?円香ちゃん、そうなの?会えなくて寂しいって、好きな人にってことだったの?」

私の曖昧な質問の意味がわかったのか、由依ちゃんも詳しく聞こうとしている。

「答えろー。好きな奴ってのは誰だー?」

二人の興味は尽きず、必死に抵抗しても無意味だった。私の両手は瑞希ちゃんに抑えられる。

「えんが好きなのは、誰?」

瑞希ちゃんの笑顔が怖い。隣の由依ちゃんは楽しみすぎで、頬が緩んでいる。

「お、教えま、せん」
「どうして?私たちが知らない人だから?」

違う。知っているからこそ、言えない。

「そんな、泣きそうな顔しないで」

瑞希ちゃんは手を離した。

「私たち、円香ちゃんが誰を好きでも何も言わないよ?ただ、応援したいなって思って……」

由依ちゃんは申しわけなさそうに俯く。

この二人なら、笠木さんのことをわかってくれるかもしれない。私がきちんと笠木さんのいいところを伝えたら、誤解がとけるかもしれない。

「……私が好き、というか……気になる、のは……笠木さんです」