「へえ」


まるで興味ないような返事に、真面目に答えてしまった私が馬鹿らしく思えてしまう。


というか、聞いておいてその態度はないだろう。


「……笠木さんはどうして私をここに連れて来たのですか?」


笠木さんと話したい人はまだたくさんいて、こんなところで油を売っている暇はないはずだ。


「お嬢様の顔色がよくなかったから。人酔いでもしたかと思って」


初めて笠木さんの優しさが私に向けられて、嬉しいような、照れるような、言葉に表せないような感情が込み上げてきた。


笠木さんはいろんな人と話していたのに、私の変化に気付いてくれた。


今までそんなふうに気遣われたことがなくて、くすぐったい気分だ。


「それで、なんで人と話すことが怖いんだ?」


さっきの気遣いはどこに行ったのかと思うほど、無神経な質問だった。
てっきり、そっとしておいてくれるのかと思った。


だけど、私がお嬢様だと知っている笠木さんになら、話してもいいのではないかと思った。


「……私に話しかけてくださる方たちは皆、私のことをまるで見ていませんでした。私なんて、いてもいなくても変わらない……」


初めて悩みを口にし、視界が滲んできた。


「誰も、私のことを見てくれない。そんな人たちばかりで、私は……疲れたんです」


お父様の力、小野寺という名前で近寄ってくる人たち。
そういう人や環境から、私は逃げたかったのだ。


「お嬢様ってつまらない奴なんだな」


本当、さっきの優しさはどこに行ったのだろう。


笠木さんはストレートに言ってきた。


話してもいいと思ったことを後悔する。


「……どうして、あなたにそのようなことを言われなくてはならないのですか」


聞かれたことに対して答えただけ。
ただそれだけのことなのに。


「事実だろ。お嬢様がしていることは、逃避でしかない。お嬢様は完全にその世界から切り離れることはできないのに」


笠木さんの言う通りだと思った。
どのようなことをしても、私は結局あの世界に戻る。


私の苦手な場からは、逃げられない。


「それをわかっていてここに来たなら、ただの逃避だ」


厳しい言葉だけど、全く間違っていない。


「私は、少しでも……」


少しでも、なんだ。
どうして私はここに、あの学校に来た?


「……私を、見て欲しかった……」


言葉にしてみると簡単で、だけどとても恥ずかしかった。


「……つまらないを通り越して、ただのバカだな」


笠木さんは呆れているように聞こえた。


何か言い返してやろうと笠木さんのほうを見ると、笠木さんは空を見上げいた。


「何もしないで理解して貰えると思ってるなら、甘い。自分を知ってほしいなら、見てほしいなら、相手を知ろうとしろ。関わりたいと思われていなきゃ、他人はそれほどお嬢様に興味ねーよ」


腹の立つ言い方ではあったけれど、笠木さんの言葉に、妙に納得している自分がいる。


「受け身のままいて、卒業して、元の世界に戻ってみろ。同じことを繰り返すどころか、それ以上に悲惨な結果になるぞ」


笠木さんは仮定の言葉を使わない。


「どうしてわかるのですか?」