少女は鞄を大事そうに抱えて去っていった。

「フリーマーケットは、いらなくなったものを売る場所だと聞いていたのですが?」

どうしても我慢できず質問するが、嫌味のように言ってしまった。

笠木さんは私を一瞥すると、また新たに来た人と話し始めた。

笠木さんの視線が鋭く、睨まれたような気がする。

「玲生くんは、基本的にお金を取らないの」

答えてくれたのは汐里先生だった。私が笠木さんに怯えたことがわかったのか、柔らかく包み込んでくれるような言い方だ。

しかし言っている意味がわからず、首を傾げる。

「さっき言った通り、玲生くんはここにお金を稼ぎに来てるわけじゃないの。自分と仲良くしてくれる人たちが何を求めてるのかを覚えて、それを配る。ボランティアみたいなものだよ」

そういえば、少年たちに見せていたカードはいつの間にかなくなっている。お金のやり取りは、していなかった。

「どうしてそのようなことを……」
「ね。不思議だよね」

先生もわかっていないということは、本人に聞くしかないということか。

だけど、笠木さんはさっきからずっと途切れないお客様と会話をしている。邪魔はできない。

「あの、私たちがここにいる意味はあるのですか?」

ずっと笠木さんの知り合いが来て、笠木さんが話し相手になっているだけ。

私はただいらなくなったものを持ってきただけになる。

「ほとんどないかな。でも、ときどき玲生くんと知り合いじゃないお客さんが来るから、そういうときは私たちが接客する」

接客という単語に、妙に不安になった。

世間知らずの私に、できるだろうか。

そんな不安が伝わったのか、先生は私の背中に触れた。

「そんな身構えなくて大丈夫だよ。笑顔でいれば、ちょっとの失敗は許してもらえるから」

それでも不安は消えなかった。

そのちょっとの失敗で怒られるのではないか。そもそも、人と話すことが怖くなっている今の私に、上手く会話ができるだろうか。

「あのね、小野寺さん。たしかにお金のやり取りはしてるけど、ここは完璧なお店じゃないの。ミスしてもいいんだよ」

先生は私の両頬を挟んだ。そして親指で無理矢理口角を上げられた。

「ここではコミュニケーションが大事だからね。笑顔、笑顔」

コミュニケーション。人との会話。笑顔。

その全てが、私をさらに緊張の沼に陥れた。
上手く、笑えない。

「汐里さん、ここ頼む」

すると、笠木さんが私の腕を掴んで立ち上がった。

「あの……」

どうしたのか聞こうにも、笠木さんは聞く耳を持ってくれない。

逃げることもできず、私は靴を履いて笠木さんに手を引かれて人混みの中を歩く。

歩いている間、笠木さんは何も言ってこなかった。

公園の端にあるベンチに座らされ、笠木さんは後ろに回り、背もたれに腰をかけた。

「お嬢様、人付き合い苦手か?ずっと暗い顔してる」

あまりにも単刀直入すぎて、勢いよく振り向いてしまった。笠木さんは流し目で私を見下ろしている。

その目が嫌で、逃げるように足先を見つめる。

「……苦手とは、違うと思います。私は……人と話すのが……怖い」