「睨むなよ。隠してたってどうせバレるんだから」

一度はわかったと言ってくれたのに、それはない。

それに、もしそうだとしても、他人の口から言われたくはなかった。

「本当にお嬢様ってこと……?」

今の笠木さんの台詞が、先生の疑問に答えてくれたらしい。

答えなければならないとわかっているが、ここまで来ても知られたくないという思いもあり、頷くことができなかった。

「諦めが悪いお嬢様だな」

私が悩んでいたら、笠木さんが横から茶々を入れてきた。

「あ、あなたこそ、どうして約束を守ってくださらないのですか」
「あ?あー……そう言えばそんなことも言ったな」

どうやら笠木さんは私の言ったことを忘れていたらしい。

私が一番気にしていることを、そんなことだと言った。

「……そんなことでは、ないのです」
「あっそ。まあどうでもいいんだけど」

『そんなこと』も『どうでもいい』も似たようなものだと思う。

笠木さんと話していたら、自分が考えすぎのような気がしてくる。

「汐里さん、今週の日曜朝の八時、緑公園に来れる?」

笠木さんの中で私との会話は終わったのか、席に戻ってお弁当を食べている先生に話しかけた。

先生は何かを噛みながら壁に掛けてあるカレンダーを見た。

「もうそんな時期か。今回は私も出したいものがあるから、もう少し早めに行くよ」
「了解」

笠木さんは短く返事をすると、今度はドアから出て行こうとしたところを、先生が呼び止める。

「ねえ、玲生くん。今回は小野寺さんにも参加してもらったら?お嬢様ならいらないもの、いっぱいあるんじゃない?」

二人が何の話をしているのかわからず、先生と笠木さんの顔を交互に見る。

笠木さんは不服そうな顔をしている。

「それに、せっかく出会ったのにそんなに喧嘩ばかりするのもよくないと思うの」

先生はご飯を口に運びながら言った。笠木さんは面倒そうにため息をつき、頭をかいた。

「お嬢様、緑公園は知ってるか?」
「……はい」

よくわかっていないまま、返事をする。

「今度の日曜日、そこでフリーマーケットがあるんだ。俺たちは、そこでいらなくなったものを売る。……来るか?」

フリーマーケットという言葉を、初めて聞いた。

いらなくなってしまったものは、捨ててしまうか、部屋の隅に放置するかのどちらかだったが、それを売るとは面白そうだと思った。

「行ってみたいです」
「じゃあ決まり。小野寺さんもいらないものがあったら、持ってきてもいいからね」

先生はそう言いながら、お弁当箱を片付けた。笠木さんは私を誘ったことにまだ納得がいかないのか、不満そうな顔をして出て行った。

逆に私はフリーマーケットというものが楽しみで、内心浮かれながらお昼を終えた。