だけど、転校初日の私に行くところなんてない。人目を避けながら歩いていたら、保健室に来てしまっていた。

ほんの数時間前に体調悪くなくても来ていいと言われ、その言葉に甘えて、というより無意識に来た。

さすがに入ることはできなくて、来た道を帰ろうとしたとき、ドアが開いた。

「小野寺さん?そんなところに立ってどうしたの?」
「えっと……」

先生に見つかってしまった。適当な言い訳をしようと思ったが、動揺からか言葉が出てこない。

「それ、お弁当?あ、そっか」

お弁当と言われて咄嗟に背中に隠したけれど、どう考えても意味がない。先生は少し移動して室内に向けて手を差し出した。

「どうぞ?」

ここまで来て逃げることなどできず、私は先生の優しい目を見ることができず、俯いて中に入った。

先生も後から入ってきて、ドアを閉めた。

今度は自分からさっき座っていた椅子に座る。だけど、座ってから気付いた。

「先生、どこかに行かれる予定だったのでは……」
「少しジュースが飲みたいなって思っただけだから、気にしないで」

照れ笑いを見せる先生のポケットから小銭の音がする。そして自分の机に置いていた弁当を持って、斜め前に座ってくれた。

開けられたお弁当は、半分ほどなくなっている。食べている途中に飲み物が欲しくなったのだろう。

私も弁当箱を開ける。

「わあ、小野寺さんのお弁当、豪華だね」
「そう、ですか……?」

私にとっては当たり前というか、今朝は柳に今までよりも少し地味にしてもらったはずなのに。

「豪華だよー。なんか、高級そう」

どう答えたらいいのか、わからなくなった。自分のことは隠していたいから、これが普通だとは言えない。

「そりゃお嬢様なんだから、それくらい普通だろ」

私が迷っていたら、窓の外からそんな声が聞こえてきた。声の主は開いていた窓から中に入ってくる。

「ちょっと玲生くん。そこから入るのはやめてって、何回も言ってるでしょ」
「あそこからだとこっちのほうが近いし楽なんだから、仕方ないだろ」

笠木さんの言うあそこがどこかは分からないが、先生はため息をつきながら笠木さんが入り口に利用した窓を閉めた。

笠木さんは私のお弁当を覗き込んで感心している。

「それで、小野寺さんがお嬢様ってどういうこと?」

先生は席に戻りながら言った。

笠木さんの登場の仕方のインパクトが強烈で忘れていた。内緒にしておいてほしいと言ったのに、笠木さんは間違いなく私をお嬢様と呼んだ。

約束が違う。

恨みを込めて彼を睨む。