違う。私は、玲生さんを幸せにしたかっただけではない。

二人で、幸せになりたかった。二人で幸せになれると思っていた。

あの時間に終わりがあるなんて、思っていなかった。

そう思うと、また涙が零れた。葬式中も、ずっと泣いていた。

もう、あの優しい声で私の名前を呼んでくれない。私と一緒に、子供のように笑ってくれない。

叶えたいと口にした夢は、一生叶わない。

玲生さんは、どこにもいない。

葬式が終わり、家に帰っても悲しみは消えなかった。

寝て、起きて、泣く。その繰り返しだった。

私を心配して、由依ちゃんと瑞希ちゃんが来てくれた日もあった。

「円香ちゃん、大丈夫?」
「えん、少しは顔見せてよ」

そう言われても、赤く腫れた目を見せて、さらに心配かけることはしたくなかった。

「……ごめんなさい……」

私の声が二人に届いたのかはわからない。久々に口を開いたせいもあり、それだけ声が小さかった。

「また来るね」
「そのときは元気な姿、見せてよ」

二人に会うことなく、帰ってもらった。

大切な友人を悲しませてまで、私は一体何をしているのだろうと思った。



玲生さんが亡くなって一週間が経った。

いつまで経っても、悲しみは消えてくれない。

玲生さんのいない世界でなんて、生きる意味がない。やりたいことをやる玲生さんを真似して、この世から去ってしまおうか。

それくらい、私は自暴自棄になっていた。

だけど、すぐにダメだと気付いた。

せめて、玲生さんが私とやりたいと言ってくれたことだけでも達成したい。

そう思うと、引きこもっている場合ではないと、私は部屋を飛び出した。

「お父様!」

ちょうど出かけようとしていたお父様を呼び止める。

「円香……」

ろくに眠っていない私の顔、身なりは酷いものだろう。だが、今はそんなことどうでもいい。

「私は、この先誰とも結婚するつもりはありません」

お父様がお母様以外の人と結婚しないように、私も玲生さん以外の人と結婚したくない。

「……ああ」

それが伝わったのか、お父様は特に何も言ってこない。

「ですから、私がお父様の会社を継ぎます」
「……本気か?」
「はい」

それから、玲生さんの夢を叶えるためには、お金が必要だ。お父様のお金ではない。自分で稼いだお金だ。

「……わかった。明日から勉強のために会社に来なさい」

そしてお父様は出かけて行った。