その言葉を最後に、玲生さんの手がベッドに落ちた。

隣の機械が一定の音で鳴っている。

「玲生、さん……?」

恐る恐る名前を呼ぶが、目を開ける気配はない。視界が滲んでいく。

「嫌です!目を開けてください、玲生さん!」

玲生さんの体を揺らすが、玲生さんは返事をしてくれない。

「私の料理を食べたいって……私といろんなところを旅したいって……そう言ったじゃないですか!」

ベッドのそばに座り込む。だけど、玲生さんの手は離さない。

「私と、結婚するって……」

どれだけ拭っても、涙は溢れ出てくる。

「嘘つき……」

だけど、玲生さんの言葉に従うような演技をした私も、嘘つきだ。

玲生さんを忘れるなんてできない。玲生さん以外の誰かと幸せになれるなんて思えない。

「私には玲生さんしかいないのに……」

涙は枯れることを知らず、ずっと泣いていた。



真っ暗な自室で、ドアに背中を預けて座る。

玲生さんが死んだなんて、悪い夢に違いない。

……なんて、現実逃避をしようとするくらい、私は現実が受け入れられていなかった。

すると、小さくノックの音がした。返事をしなくても、ドアが開く。

「彼の葬式に行かないのか」

そこに立っていたのは、喪服を着たお父様だった。その格好、台詞にやはり玲生さんが死んだのだと思い知らされる。

「……行きます」

部屋のクローゼットの中に喪服があるため、お父様に背を向けて足を進める。その途中で、お父様が電気をつけ、部屋が明るくなる。

「下で待っている」

そしてドアを閉めた。

クローゼットを開け、喪服を手にするとまた涙が流れそうになった。

鼻をすすりながら着替え、玄関に向かう。そこにはお父様と柳がいたが、柳は何も言ってこない。

後から来た愛理さんと柳に見送られて葬式場に向かう。

汐里先生と見かけない男性が受け付けをしている。

「小野寺さん……」

私に気付いた汐里先生は名前を呼んだが、言葉が出てこないのか、口を噤んだ。そして受け付け台から離れ、優しく私を抱きしめた。

「……ありがとう」

感謝の言葉。玲生さんと再会して、玲生さんと過した中で、何度聞いただろうか。

「小野寺さんといた玲生君はとても幸せそうだった。ありがとう」