「結婚してからの楽しみが増えたよ」

最近の玲生さんは、よく未来の話をしてくれる。それを聞くだけでも、私は幸せな気持ちになる。

「円香は俺としたいこととかないの?」
「私ですか?」

考えてみるが、特に思い浮かばない。

「私は、玲生さんといることができるだけで十分です」

玲生さんは目を見開いたが、すぐに顔を顰めた。

「それはわかってんだよ。ほか、ないの?」
「えっと……」

玲生さんといるだけでいいと思っているのは本心で、玲生さんがやりたいと思うことを叶えたい気持ちもある。

「……玲生さんのやりたいことが、私のやりたいこと、です」
「円香は無欲だなあ」

野菜炒めを食べ終えた玲生さんは、弁当箱に蓋をする。

「俺は円香とやりたいこと、いっぱいあるよ」
「例えば……?」

空になった弁当箱を受け取りながら尋ねる。玲生さんは人差し指を立てた。

「まずは結婚式。円香のウエディングドレス姿が見たい」

結婚式はやるものだと勝手に思っていたから、それが玲生さんのやりたいことだったのは少し驚く。

「二つ目」

そう言いながら、もう一本指を立て、ピースサインを作る。

夢を語る玲生さんがとにかく楽しそうで、私まで楽しくなってくる。

「円香といろんなところに行きたい。いろんなものを見て、経験したい」

理由が玲生さんらしい。

「そして最後」

玲生さんは指を立てずに、まっすぐ私の目を見た。

「俺が退院したら、一緒に住もう」

嬉しさのあまり、一瞬言葉を忘れた。

「どこか一部屋を借りる余裕なんてないから、俺の家か円香の家、どっちかに住むことになるだろうけど……どう?」

私は何度も頷く。

「頷きすぎ」

玲生さんは笑っているが、それ以外どう喜びを表現すればいいのかわからなかった。

「いいね、楽しみがどんどん増えてく」
「ですね」

私たちは笑いあった。

「それで、一緒に住むとしたら俺の家か、円香の家、どっちがいい?」

難しい選択だと思った。

少しずつお父様のことを知り始めているから、ここで離れて暮らすことはあまりしたくない。

だけど、あの家には私たちのことを反対している柳がいる。玲生さんをあの環境で生活させることはできない。

「……玲生さんの家にしましょう」
「俺の家ね。狭いって文句言うなよ?」
「言いませんよ」

少しムキになって返すと、玲生さんは私に疑いの目を向けて笑った。

「何の話をしてるの?」

恵実さんが病室に入りながら質問してきた。

「俺の家で一緒に住みたいねって話してたんだ」

玲生さんが答えると、恵実さんは目を輝かせた。

恵実さんは私のほうに来て、両肩を掴む。