数日後、玲生さんの手術日が二週間後に決定した。お金はややこしくなるからと、全額お父様が出すことになった。

お父様には一生逆らえないと玲生さんは苦笑していた。

そして私は、奈子さんの家を訪ね、料理を習っていた。

理由は簡単だ。玲生さんが、私の手料理を食べてみたいと言ったから。

しかし、私は生まれて一度も包丁を持ったことがない。食事の時間になると、食卓に料理が並んでいる生活を続けてきたことを、ここに来て悔やむ。

包丁の持ち方から、食材の切り方を一から丁寧に教えてもらった。

私がどれだけ失敗しても、奈子さんは嫌な顔をしたり、怒ったりすることはなかった。

そして今日、ようやく奈子さんの手が加わっていない、私一人で一品作ることができた。

野菜炒めという簡単なものだが、それでも達成感があった。

それを小さな弁当箱に入れ、病院に持っていく。

玲生さんは相変わらず休憩室でほかの入院患者と話していた。

「こんにちは」

私が挨拶をすると、そこにいるほとんどの人が挨拶を返してくれる。

毎日のように玲生さんのお見舞いに来ているからか、みんな私にも優しく接してくれる。

「じゃあ、また。円香、病室行こう」

玲生さんはみんなにそう言うと、手を差し出した。私は自分の手を重ねる。

緊張は常にしているが、もう、手を繋いで歩くことに抵抗はない。

黙って歩いていたら、心臓の音に集中してしまいそうで、何か話さなければと思った。

「あの……野菜炒め、作ってきました」

歩くことに一生懸命だった玲生さんは立ち止まった。疲れが吹き飛んだように、顔が晴れる。

「やっと円香の手料理が食べられるんだな」
「あまり期待はしないでくださいね」

しかし玲生さんの耳にそれは届いていなかった。

ベッドに座ると、玲生さんは子供がご褒美をねだるような目をして見上げてきた。

お弁当箱と箸を保冷バッグから取り出し、ベッドに備え付けられている机の上に置いてから椅子に座った。

玲生さんは両手を合わせる。

「いただきます」

蓋を開けた玲生さんは、目を輝かせている。

「美味しそう」
「本当に、初めて作ったので、自信はないですからね?」

玲生さんははいはい、と私の言葉を適当に流し、箸箱から箸を取り出した。野菜炒めを口に運ぶ。

私の不安は、玲生さんの満足そうな笑顔で消え去った。

「よかった……」

それは思わず口から出てしまい、玲生さんは笑っている。

「美味しいよ」

玲生さんが嘘をついているようには見えなくて、さらに嬉しくなる。

「次も期待してる」
「そんな、やめてください」

私がすぐに言うと、玲生さんは笑った。