◇
数日後、玲生さんの手術日が二週間後に決定した。お金はややこしくなるからと、全額お父様が出すことになった。
お父様には一生逆らえないと玲生さんは苦笑していた。
そして私は、奈子さんの家を訪ね、料理を習っていた。
理由は簡単だ。玲生さんが、私の手料理を食べてみたいと言ったから。
しかし、私は生まれて一度も包丁を持ったことがない。食事の時間になると、食卓に料理が並んでいる生活を続けてきたことを、ここに来て悔やむ。
包丁の持ち方から、食材の切り方を一から丁寧に教えてもらった。
私がどれだけ失敗しても、奈子さんは嫌な顔をしたり、怒ったりすることはなかった。
そして今日、ようやく奈子さんの手が加わっていない、私一人で一品作ることができた。
野菜炒めという簡単なものだが、それでも達成感があった。
それを小さな弁当箱に入れ、病院に持っていく。
玲生さんは相変わらず休憩室でほかの入院患者と話していた。
「こんにちは」
私が挨拶をすると、そこにいるほとんどの人が挨拶を返してくれる。
毎日のように玲生さんのお見舞いに来ているからか、みんな私にも優しく接してくれる。
「じゃあ、また。円香、病室行こう」
玲生さんはみんなにそう言うと、手を差し出した。私は自分の手を重ねる。
緊張は常にしているが、もう、手を繋いで歩くことに抵抗はない。
黙って歩いていたら、心臓の音に集中してしまいそうで、何か話さなければと思った。
「あの……野菜炒め、作ってきました」
歩くことに一生懸命だった玲生さんは立ち止まった。疲れが吹き飛んだように、顔が晴れる。
「やっと円香の手料理が食べられるんだな」
「あまり期待はしないでくださいね」
しかし玲生さんの耳にそれは届いていなかった。
ベッドに座ると、玲生さんは子供がご褒美をねだるような目をして見上げてきた。
お弁当箱と箸を保冷バッグから取り出し、ベッドに備え付けられている机の上に置いてから椅子に座った。
玲生さんは両手を合わせる。
「いただきます」
蓋を開けた玲生さんは、目を輝かせている。
「美味しそう」
「本当に、初めて作ったので、自信はないですからね?」
玲生さんははいはい、と私の言葉を適当に流し、箸箱から箸を取り出した。野菜炒めを口に運ぶ。
私の不安は、玲生さんの満足そうな笑顔で消え去った。
「よかった……」
それは思わず口から出てしまい、玲生さんは笑っている。
「美味しいよ」
玲生さんが嘘をついているようには見えなくて、さらに嬉しくなる。
「次も期待してる」
「そんな、やめてください」
私がすぐに言うと、玲生さんは笑った。
数日後、玲生さんの手術日が二週間後に決定した。お金はややこしくなるからと、全額お父様が出すことになった。
お父様には一生逆らえないと玲生さんは苦笑していた。
そして私は、奈子さんの家を訪ね、料理を習っていた。
理由は簡単だ。玲生さんが、私の手料理を食べてみたいと言ったから。
しかし、私は生まれて一度も包丁を持ったことがない。食事の時間になると、食卓に料理が並んでいる生活を続けてきたことを、ここに来て悔やむ。
包丁の持ち方から、食材の切り方を一から丁寧に教えてもらった。
私がどれだけ失敗しても、奈子さんは嫌な顔をしたり、怒ったりすることはなかった。
そして今日、ようやく奈子さんの手が加わっていない、私一人で一品作ることができた。
野菜炒めという簡単なものだが、それでも達成感があった。
それを小さな弁当箱に入れ、病院に持っていく。
玲生さんは相変わらず休憩室でほかの入院患者と話していた。
「こんにちは」
私が挨拶をすると、そこにいるほとんどの人が挨拶を返してくれる。
毎日のように玲生さんのお見舞いに来ているからか、みんな私にも優しく接してくれる。
「じゃあ、また。円香、病室行こう」
玲生さんはみんなにそう言うと、手を差し出した。私は自分の手を重ねる。
緊張は常にしているが、もう、手を繋いで歩くことに抵抗はない。
黙って歩いていたら、心臓の音に集中してしまいそうで、何か話さなければと思った。
「あの……野菜炒め、作ってきました」
歩くことに一生懸命だった玲生さんは立ち止まった。疲れが吹き飛んだように、顔が晴れる。
「やっと円香の手料理が食べられるんだな」
「あまり期待はしないでくださいね」
しかし玲生さんの耳にそれは届いていなかった。
ベッドに座ると、玲生さんは子供がご褒美をねだるような目をして見上げてきた。
お弁当箱と箸を保冷バッグから取り出し、ベッドに備え付けられている机の上に置いてから椅子に座った。
玲生さんは両手を合わせる。
「いただきます」
蓋を開けた玲生さんは、目を輝かせている。
「美味しそう」
「本当に、初めて作ったので、自信はないですからね?」
玲生さんははいはい、と私の言葉を適当に流し、箸箱から箸を取り出した。野菜炒めを口に運ぶ。
私の不安は、玲生さんの満足そうな笑顔で消え去った。
「よかった……」
それは思わず口から出てしまい、玲生さんは笑っている。
「美味しいよ」
玲生さんが嘘をついているようには見えなくて、さらに嬉しくなる。
「次も期待してる」
「そんな、やめてください」
私がすぐに言うと、玲生さんは笑った。