「……どう切り出せばいいのかわからなかったんだよ」
笠木さんを責めるような空気が流れる。
「玲生、ちゃんと説明して」
恵実さんは無表情で言った。笠木さんに向けられた視線はあまりに冷たかった。
「円香と過ごしたことで、もっと生きたいって思った。だから、手術しようって決めた」
恵実さんは目に涙を浮かべている。今にも笠木さんに抱きつきそうだ。
「でも、金がないだろ?」
その一言で、恵実さんは固まってしまった。
笠木さんはその様子を横目で見る。
「そこで円香が父親に相談しようか?って提案してきた」
恵実さんとお父様の視線が私に向く。
今思えば、随分自分勝手な話だ。親の金で解決させようとしていたのだから、大馬鹿者だ。
「だけど、俺は友達の親の金で手術したいとは思わなかった」
「だから円香と結婚をすると決めたのか」
お父様は笠木さんを睨んでいる。
今の話だけでは、笠木さんがお金を目当てに私と結婚しようとしていることになってしまう。
私は否定しようとしたけど、笠木さんが手をかざして私を止めた。
「家族なら、金を出してもらうことに抵抗がないからだよ」
それは聞いたことのない、笠木さんの本音だった。お金目当てだと言っているように聞こえ、胸が締め付けられる。
「それに、結婚するなら円香しかいないと思ってる。だから結婚を決めた」
優しい表情をした笠木さんと目が合う。
笠木さんは、私が笠木さんの言葉に反応していたことに気付いていたらしい。だから、フォローするように私を見てきたのだろう。
「借りた金は働いて返すつもりでいる」
お父様は不思議そうな顔をして首を捻る。
「家族なら……とか言っていただろう」
「うん……でも、返すよ」
笠木さんが笑顔を返すと、お父様は恵実さんのほうを見た。
「私は二人が結婚しなくとも、手術費を出そうと思います」
耳を疑った。
「彼が生きることで、娘が幸せになるのなら、いくらでも」
「そんな、申し訳ないです」
首を振る恵実さんは、どこか悲しそうに見える。
「私が……頼りないから……」
恵実さんは消えそうな声で呟くと、俯いた。
私は恵実さんの言っている意味がわからなかった。
「違うよ、母さん」
笠木さんはズボンを強く握りしめている恵実さんの手に触れた。
「母さんは俺のために、めちゃくちゃ頑張ってくれてる。でも、頑張りすぎて疲れているところを見るのは、俺がつらい。俺が、これ以上母さんに負担をかけたくないって思ったんだ」
恵実さんは笠木さんの手を強く握り返した。
「私は、玲生のことで負担に思ったことなんて一度もない」
そう言い切ると、小さく深呼吸した。
「玲生が生きたいって思ってくれて、すっごく嬉しいよ」
さっき言えなかった言葉を伝えると、恵実さんは笠木さんを抱きしめた。
笠木さんを責めるような空気が流れる。
「玲生、ちゃんと説明して」
恵実さんは無表情で言った。笠木さんに向けられた視線はあまりに冷たかった。
「円香と過ごしたことで、もっと生きたいって思った。だから、手術しようって決めた」
恵実さんは目に涙を浮かべている。今にも笠木さんに抱きつきそうだ。
「でも、金がないだろ?」
その一言で、恵実さんは固まってしまった。
笠木さんはその様子を横目で見る。
「そこで円香が父親に相談しようか?って提案してきた」
恵実さんとお父様の視線が私に向く。
今思えば、随分自分勝手な話だ。親の金で解決させようとしていたのだから、大馬鹿者だ。
「だけど、俺は友達の親の金で手術したいとは思わなかった」
「だから円香と結婚をすると決めたのか」
お父様は笠木さんを睨んでいる。
今の話だけでは、笠木さんがお金を目当てに私と結婚しようとしていることになってしまう。
私は否定しようとしたけど、笠木さんが手をかざして私を止めた。
「家族なら、金を出してもらうことに抵抗がないからだよ」
それは聞いたことのない、笠木さんの本音だった。お金目当てだと言っているように聞こえ、胸が締め付けられる。
「それに、結婚するなら円香しかいないと思ってる。だから結婚を決めた」
優しい表情をした笠木さんと目が合う。
笠木さんは、私が笠木さんの言葉に反応していたことに気付いていたらしい。だから、フォローするように私を見てきたのだろう。
「借りた金は働いて返すつもりでいる」
お父様は不思議そうな顔をして首を捻る。
「家族なら……とか言っていただろう」
「うん……でも、返すよ」
笠木さんが笑顔を返すと、お父様は恵実さんのほうを見た。
「私は二人が結婚しなくとも、手術費を出そうと思います」
耳を疑った。
「彼が生きることで、娘が幸せになるのなら、いくらでも」
「そんな、申し訳ないです」
首を振る恵実さんは、どこか悲しそうに見える。
「私が……頼りないから……」
恵実さんは消えそうな声で呟くと、俯いた。
私は恵実さんの言っている意味がわからなかった。
「違うよ、母さん」
笠木さんはズボンを強く握りしめている恵実さんの手に触れた。
「母さんは俺のために、めちゃくちゃ頑張ってくれてる。でも、頑張りすぎて疲れているところを見るのは、俺がつらい。俺が、これ以上母さんに負担をかけたくないって思ったんだ」
恵実さんは笠木さんの手を強く握り返した。
「私は、玲生のことで負担に思ったことなんて一度もない」
そう言い切ると、小さく深呼吸した。
「玲生が生きたいって思ってくれて、すっごく嬉しいよ」
さっき言えなかった言葉を伝えると、恵実さんは笠木さんを抱きしめた。