自分では伝えられて後悔はないが、困っている笠木さんを見ると、言わなければよかったと思ってしまう。

「一緒にいるようになって、もっと生きたいって思うようになっちゃったんだよなあ」

それを聞いた瞬間、どうしても表情が見たくて、私は笠木さんの腕を引っ張った。

笠木さんは私の行動に驚いていて、その独り言が本心なのかはわからなかった。

「今の、本当ですか……?」

恐る恐る聞くけど、笠木さんは答えるよりも先に体の向きを変えた。

私が笠木さんの手首を掴んでいたはずなのに、それは簡単に外され、右手を左手に絡めてきた。

笠木さんの優しい目が私を捕える。

「本当ですよ?」

嘘を言っているようには見えない。しかし笠木さんの声があまりに穏やかで、喜びと照れが混じり、複雑だ。

私が反応できないでいると、笠木さんはまた仰向けになった。

「でもなあ……手術したいって言っても、金がないし……」
「父に相談してみますか?」

それは何気なく出てきた言葉だった。だけど、それを言った途端、笠木さんの纏う空気が変わったような気がした。

間違ったことを言ってしまったのではないかと、不安になる。

「友達の親の金で手術したいとは思わねえよ」

拒絶でもされたかと思うほど、冷たい声だった。

笠木さんが寝返りをしてしまったせいで、本当に怒っているのかがわからなくて、余計にどうすればいいのかわからない。

しかしそんなことは関係なく、たったそれだけの言葉だが、私を悲しみに落とすには十分だった。

「友達、ですか……」
「そうでしょ。俺たち、付き合ってないじゃん」

また拒絶されたと思うが、事実だ。お互いに告白をしたわけではないから、交際は始まってすらいない。

「では、お付き合いしましょう」

そう提案すると、笠木さんは一瞬視線を私に向けた。

「そんな理由で俺が付き合う思ってるの?ていうか、そんな閃いた!みたいな感じに言われても」

何も言い返せない。

笠木さんのことは好きで、付き合うことができるならそうしたいが、今は違う。

笠木さんに手術をしてもらうために、そんな提案をした。

どうしてもっとしっかりと考えて話せないのかと、自分を責める。

「第一、娘の彼氏ってだけで手術費出してくれるような人なのか?」

私以上に、笠木さんのほうが冷静だったらしい。お父様を説得できるとは思えない。

だけど、笠木さんが手術をするには、お父様に頼るしかないはずだ。

そのとき、さらに馬鹿げたことを思いついた。

「……娘の夫なら、わかりません」
「……は?」

振り向いた笠木さんの表情が固まっている。

「それ、本気で言ってるのか?」

小声で、不機嫌そうに確認された。

自分でも、そう思う。付き合うことがダメなら結婚、なんて普通に考えておかしい。

「頭がおかしいことを言っているのはわかってます。でも、それしか思いつかないんです……」

笠木さんの反応をそれ以上見ることができなくて、顔を背ける。