特に話したわけでもないのに、私が悩みを抱えているとわかった先生を尊敬する。

私は受け取った紙を無駄に大切に持ち、お辞儀をして保健室を後にした。

しばらくして笠木さんと満足に話せなかったこと、先生に出してもらったお茶を飲まなかったことを後悔したが、戻ることも出来ずに後ろ髪を引かれる思いで教室に向かった。

後ろのドアを開けて入ると、その近くの生徒、先生が私に注目した。なるべく音が出ないようにドアを閉め、教卓まで歩く。

その途中に居眠りをしている生徒以外が私に視線を向けてくる。

「遅れてすみません。保健室に行っていました」

その言葉とともに、嘘の利用証明書を渡す。先生が読んでいる時間は、バレてしまうのではないかと、心臓の音が大きくなっていく。

「大丈夫なの?」

それを受け取った先生は、心配の目をしている。

悪いことをしたと自覚はあるが、気付かれなかったことに安堵する。

「……はい」
「無理はしないでね」

それ以上は何も言われず、自分の席に戻った。私が椅子に座ると、英語の授業が再開した。

授業が終わると、早速坂野さんが声をかけてくれた。

「小野寺さん、保健室に行ってたの?大丈夫?」
「は、はい」

彼女に嘘をつくことに抵抗があり、自分でもわかるくらい、下手な作り笑いをしてしまった。そんな私の右頬に、誰かが指をあてた。

「慣れない環境に来たから、体調崩したんでしょ」

東雲さんだ。私は右手で頬をさすった。

坂野さんはそれを冗談として受け取らず、本気で心配そうに見てくる。

罪悪感が顔を出してくる。

「そっか……あ、さっきの授業のノート見る?」

坂野さんは机の上に開いたままにしていたノートを閉じた。

「では、お借りしてもよろしいですか?」

そして笑いながら私のほうに差し出した。

「もちろん。なんだろう、小野寺さんの話し方、くせになりそう」
「わかる。なんかね」

私には理解できないことで、二人は顔を見合わせて笑っている。私は戸惑いながら、坂野さんのノートを受け取る。

「あの……返すのは明日でも問題ありませんか?」
「うん?全然いいよ」

坂野さんはどうして私がそんな質問をするのかわからないのか、首を傾げながら許可してくれた。

「てか、英語だけで大丈夫?」

東雲さんのそれで、坂野さんはさっきの私の質問を理解したのか、納得したような顔をしている。