現在の時刻は朝六時五十九分。寝ぼけながら、枕元にある目覚ましが鳴るのを待つ。
一分後に鳴ったそれを止めて、体を起こす。両腕を上に上げて体を伸ばしていたら、遠慮気味にノックの音がした。
「はい」
寝起きの声は小さかった。返事をしたことで、ノックをした者がドアを開ける。その場で流れるように頭を下げる。
「おはようございます、円香お嬢様」
黒服を着た執事、柳はまったく表情を崩さずに挨拶をした。
「おはよう、柳」
私が挨拶を返すと、柳は部屋に入ってカーテンを開けた。朝日の眩しさに目を細める。
だけど、おかげで少しずつ意識がはっきりしてくる。
「お嬢様。本日より新しい学校になります」
振り向いて言う柳は歯切れが悪く、どこか不機嫌そうに見える。
「何が言いたいの?」
怒っているわけではないが、その声には苛立ちが含まれているような気がした。
「……失礼ですが、お嬢様。本当に通われるのですか?お嬢様には不釣り合いのように思います」
随分とはっきりした物言いだ。恐らく、いや、間違いなく、柳の本音だ。
転校先が決まってから今日まで何も言ってこなかったが、当日になって黙っていられなかったのだろう。
「少し……疲れたの。今は、私のことを知らない人がいる場所で生活したい」
それでも柳は顔を顰めている。しかしどれだけ不機嫌そうにされても、決まったことは覆せない。
「……着替える」
ベッドを降りながら言うと、柳は軽く一礼して部屋を出た。
壁にかけていたセーラー服に手を伸ばす。膝上丈の紺色のスカートを履き、白ベースで紺色の襟のトップスを着る。仕上げに、赤いスカーフを巻いた。
部屋を出て洗面所に行き、顔を洗う。薄化粧をし、肩の辺りで切りそろえられた黒髪に櫛を通した。
もう一度鏡で姿を確認し、食卓に向かう。
「お父様はもうお仕事?」
椅子に座って柳が料理を運んでくれるのを待ちながら、父の席が空いていることに気分が落ちる。
「いえ、旦那様は先程帰宅なさいましたので、現在はお休み中かと」
「……そう」
目の前に料理が並び、箸を持つ。
「いただきます」
一人で静かにとる食事は、美味しくない。柳の腕はたしかで、いつもは絶品だが、どうしても一人になると途端に味がしなくなる。
それでも作ってくれた柳に失礼だと思い、完食した。
私の部屋から鞄を取ってきてくれていたメイドの奈子さんが少しだけ髪を整えてくれて、鞄を渡してくれた。
靴を履き、振り返る。
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
柳と奈子さんは揃った角度で頭を下げ、送り出してくれた。
一分後に鳴ったそれを止めて、体を起こす。両腕を上に上げて体を伸ばしていたら、遠慮気味にノックの音がした。
「はい」
寝起きの声は小さかった。返事をしたことで、ノックをした者がドアを開ける。その場で流れるように頭を下げる。
「おはようございます、円香お嬢様」
黒服を着た執事、柳はまったく表情を崩さずに挨拶をした。
「おはよう、柳」
私が挨拶を返すと、柳は部屋に入ってカーテンを開けた。朝日の眩しさに目を細める。
だけど、おかげで少しずつ意識がはっきりしてくる。
「お嬢様。本日より新しい学校になります」
振り向いて言う柳は歯切れが悪く、どこか不機嫌そうに見える。
「何が言いたいの?」
怒っているわけではないが、その声には苛立ちが含まれているような気がした。
「……失礼ですが、お嬢様。本当に通われるのですか?お嬢様には不釣り合いのように思います」
随分とはっきりした物言いだ。恐らく、いや、間違いなく、柳の本音だ。
転校先が決まってから今日まで何も言ってこなかったが、当日になって黙っていられなかったのだろう。
「少し……疲れたの。今は、私のことを知らない人がいる場所で生活したい」
それでも柳は顔を顰めている。しかしどれだけ不機嫌そうにされても、決まったことは覆せない。
「……着替える」
ベッドを降りながら言うと、柳は軽く一礼して部屋を出た。
壁にかけていたセーラー服に手を伸ばす。膝上丈の紺色のスカートを履き、白ベースで紺色の襟のトップスを着る。仕上げに、赤いスカーフを巻いた。
部屋を出て洗面所に行き、顔を洗う。薄化粧をし、肩の辺りで切りそろえられた黒髪に櫛を通した。
もう一度鏡で姿を確認し、食卓に向かう。
「お父様はもうお仕事?」
椅子に座って柳が料理を運んでくれるのを待ちながら、父の席が空いていることに気分が落ちる。
「いえ、旦那様は先程帰宅なさいましたので、現在はお休み中かと」
「……そう」
目の前に料理が並び、箸を持つ。
「いただきます」
一人で静かにとる食事は、美味しくない。柳の腕はたしかで、いつもは絶品だが、どうしても一人になると途端に味がしなくなる。
それでも作ってくれた柳に失礼だと思い、完食した。
私の部屋から鞄を取ってきてくれていたメイドの奈子さんが少しだけ髪を整えてくれて、鞄を渡してくれた。
靴を履き、振り返る。
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
柳と奈子さんは揃った角度で頭を下げ、送り出してくれた。