「まあ、前回よりはキャッチーな案が増えたように思います」
森泉乳業の鈴木さんが、ほんの少しだけ口角を上げて資料に目を通してくれた。
まだブラッシュアップが必要とのことだったが、一歩前進できたのは間違いない。
草壁さんのお店で働いてから、ひとつ難しいことを考えすぎる自分から抜け出せたような気がする。
自分自身も食べることが好きで、食を通して誰かを幸せにしたいと思ってこの会社に入ったんだ。
だから、自分のワクワクするような企画じゃないと意味がないことに、やっと気づいた。
「では、資料データでも送ってください。こちらも予算を詰めておきます」
「はい、本日はありがとうございました」
祐川さんと共に深々と頭を下げてから、新橋にある森泉乳業さんの本社をあとにした。
祐川さんは、電車の中で顎髭を指で撫でながら、「お前どんな考えであの企画を立てたんだ」と聞かれた。
私はおどおどしながらも、祐川さんの目を見ながら答える。
「レシピコンテストだとハードルが高いと思っている人にも、参加していただきたくて考えました」
私が提案したのは、森泉乳業さんの製品の使ったレシピを集めるのではなく、『こんな方法で食べてみたらどうなるの?』という皆の好奇心を募集する企画だ。採用された食べ合わせは人気の動画編集者に再現してもらい、若年層へのPRに繋げていくことを目的としている。
経緯を説明すると、祐川さんは「ふぅん」と興味なさげに相槌を打った。
「まあ、鈴木さんのあの反応なら、通るだろ。あとはその動画編集者とのコラボにいくらかかるかだな」
「そうですね。そこ確認しておきます」
そう答えると、ちょうど電車が渋谷駅に到着した。
平日の昼でも混雑している山手線から這い出て、私たちは会社へ戻った。
道中、自分の頬を両手でパシッと叩いて気合いを入れる。
疲れてもへこたれても、私にはあのレストランがあるから大丈夫。
いつに間にかそんな風に自分を鼓舞することが日課になっていた。
雨季を通り過ぎて、じわじわと太陽の日差しが強くなってきたせいか、植物レストランの植物たちは青々と茂っていた。
立派なひまわりの花がお店を取り囲むように並んで、裏庭の畑にある野菜たちも次々に収穫の時期をむかえている。
中でもピーマンとオクラは食べごろで、最近のメニューにもふんだんに取り入れられていた。