そこまで話したところで、鈴木さんはストップ、と言って私の話を遮り手を挙げた。
「こういった企画は御社とじゃなくても沢山やってきたんですよ。正直、斬新さがない。まったく新しくない。花井さん、この企画、つくってて楽しかったですか? 本当にユーザーが楽しんで参加してくれると思いますか?」
 その言葉が、ずしりと胸の中に響いた。私の情熱のなさが、この企画に透けて見えてしまったんだろう。
 実績のある企画しかやるな、というのが祐川さんの教えだった。
 その教えに沿ってつくった、超王道の企画が、自分でつくっていても楽しいわけがなかった。
 図星を突かれ、私は言葉を失ってしまう。そんな私を見て、祐川さんは慌ててこの場を取り繕ってくれた。
「すみません。つい、森泉乳業さんにしっかりと金額に見合った効果を実感してもらいたいと思い、過去に反響のよかった実例を参考にしてしまいました。もっと斬新で、遊び心のある企画がいいですかね?」
「そうなんですよねー。もっとこう、御社とやる意味、みたいなのを感じさせてほしいと言うか」
「かしこまりました。ぜひ詳しくヒアリングさせてください」
 すぐになにも言えない自分が悔しくて情けない。
 私はすぐにメモ帳を取り出して、森泉乳業さんの求めることを逐一メモした。
 『ユーザーが楽しんで参加してくれると思いますか?』という質問が、頭の中でぐるぐると駆け巡っていた。




 もともと、食べることが大好きで、色んな食材の色んな食べ方を広めたくて、この大手レシピ投稿サイトを運営する会社に入社した。
 内定が決まったときはすごく嬉しくて、最初は熱い気持ちで仕事と向きあっていた。
 だけど、頑張りたい気持ちはあるのに、自分の能力が仕事に追いつかない日々が続いて、年次ごとに求められる能力は高くなって、最近は会社に行くことが少し憂鬱になってきてる。
 ユーザーのために。クライアントのために。そんな言葉は毎日聞いてるけれど、規模のでかい仕事を通して、出会ったことのない〝誰か〟を思うことはとても難しい。
 みんなは当たり前のように、そんな情熱を持って仕事をしているのだろうか。
 私はきっとまだ、目の前にあることしか見えていない。仕事の先にいるユーザーを意識することができていない。
 自己評価はさがるばかりで、こんな人間がつくった企画が楽しい訳がない。