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 ホームステイに一緒に行った竜也たちに、手紙と写真を送った。ミネソタに住むケリーとブレットにも。もちろん全部郵送だ。

 メールもあるにはあったけれど、自由に使える人はいなかった。もし使えたとしても、写真を添付しようがない。
 写真はインスタントカメラで撮った。その写真をデジタルデータにするためのスキャナは持っていなかった。それに、当時のメールでは何枚もの写真のような大きなデータは添付できなかった。

 国内の文通でも、手紙を書いて送って相手に届いて、相手が手紙を書いて送ってわたしに届くまで、最速でも一週間くらいかかった。ミネソタの手紙はもっとだ。片道でも一週間? 二週間? 途中で事故にあわずに、本当に届いてくれる?
 竜也からもほかの子たちからも写真と手紙が届いた。いつの間にこんなに写真を撮られていたのかなというくらい、たくさんあった。数年ぶんを夏のひと月だけで撮ったみたいなものだ。

 ミネソタから帰ってきて二学期が始まってから、わたしは一つ新しい習慣を作った。学校帰り、三キロの距離を歩いて帰ること。歩くときがいちばん考えごとがはかどるから。小説のネタを思い付くのも、歩いているときが多い。
 歩きながらわたしがやったのは、頭の中でケリーやブレットに話し掛けることだ。その日あった出来事や、自分の考えていること、受注の小説の筋書き。それらを全部英語で、頭の中のケリーやブレットに報告する。

 わからない単語、直訳するだけでは作れない文章に、しょっちゅう出くわす。わからなくても、私はどうにか伝えようとする。違う単語を探したり、簡単な文章をいくつもつなげてみたり。

 次にいつケリーたちと会えるかわからない。もしかしたら一生会えない可能性もある。
 でも、もしも会えるなら。次に会うときには、わたしはもっと話をしたいと思っているから。

 夏服が中間服になって、残暑が秋風になって、日が暮れるのが早くなって、どんどん寒くなっていった。最初はポツポツと途切れてばかりだったわたしの頭の中の英語は、稚拙な言葉ばかりではあっても、だんだんきちんとした形を取るようになった。

 そんな日々の中で、ケリーとブレットから手紙が来た。分厚い封筒の中には、夏の思い出の写真、ケリーたち家族の写真、ミネソタのポストカードが同封されていた。
 ブレットの手紙はドラゴンボールのカードの裏に、アッサリと短く書かれていた。ケリーの手紙はピンク色の封筒の中に入れられて、しっかりと糊付けされていた。

「ほかの誰にも見せないでね」
 封筒の表にはそう書かれていた。わたしは封筒の端をハサミで切って、丸っこい癖字の手紙を取り出した。

 こっちはみんな元気だよ、でもサファイアがいなくて寂しいよ。手紙の冒頭はそんなふうだった。それから、家族の近況報告。続いて、飛び跳ねるような字でケリーのビッグニュースが書かれていた。
「彼氏ができたの! この間、デートをしたの! 実はあたし、最初は彼のことはあまり好きじゃなかったけど、一緒にいるうちに好きになったんだ」

 微笑ましいようなラブストーリーだった。私は文面を目で追って少し笑って、最後の一文に固まってしまった。
「サファイア、竜也をどう思う? 竜也はきっとあなたのことが好きよ」
 まさか、そんなことあるわけない。竜也はいい子だよ。そんなやつがわたしを?

 わたしは恋なんか無縁でいい。彼氏なんて一生いらない。
 キスをすることもハグをすることも、体を汚すことのような気がしていた。そんなものを欲しくなかった。わたしにはたぶん、恋より大事なものがある。

 ピンク色の封筒の中には、手紙のほかにもう一つ、タロットのような体裁の天使のイラストのカードが入っていた。幸せな恋人のためのカード、というタイトルが添えられている。
 ケリーが知っているサファイアと、日本でくすぶっている本物のわたしの間には、大きな隔たりがあるのかもしれない。幸せなんて程遠いんだよと、わたしは正直に言うべきなんだろうか。

 クリスマスの時期には郵便が混み合って、手紙や荷物の到着が遅れるらしい。少し早いけれどクリスマスカート送ろうと、わたしは決めた。街に買い物に行かなくちゃ。