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 わたしの成績は抜群によくなった。誰よりもまじめに授業を聞いて、ノートをまとめ直している。結果が出ないはずがない。
 智絵は相変わらず、わたしと一緒に登校することはない。形だけ出席日数を稼ぐために、チラッと保健室に出てくる日はあるらしい。

 でも、智絵とわたしの関係が切れたわけではなくて、智絵の体調がいい日には、部屋で一緒にしゃべったりゲームをしたりした。会えないとき、智絵はイラスト付きの手紙をくれた。わたしは、短編小説を書き上げるたびに智絵に読んでもらった。

 わたしが智絵の部屋にいたとき、たまたま、智絵の担任である女の先生が家庭訪問に来たことがあった。わたしたちはゲームをしていた。担任が智絵の部屋に入ってきて、智絵は慌ててゲームのポーズボタンを押した。
 小さな音量でBGMが鳴り続ける。智絵は担任のほうを見ず、視線を低くしたまま、体を硬くしていた。

 わかりきったことを、担任は智絵に訊いた。
「やっぱり、教室には行きたくない?」
 智絵は震えながらうなずいた。

 本当は、行きたいか行きたくないかっていう、意思の問題じゃないんだ。智絵の体調は、学校というものを拒んでいる。
 体が動いてくれないときは本当にどうしようもないんだって、担任にはきっとわからないんだろう。学校という世界でつまずいたことがないんだろうから。

 担任は、進路希望調査の紙を智絵に差し出した。
「中学は卒業させてあげられる。でも、この先はどうするの? 高校は? どうやって生きていくつもり?」
 担任はチラッとわたしを見る。まるで、わたしが将来の道をしっかりと決めた優等生であるかのように。

 高校とか、その先とか、わかるもんか。中学を卒業するまで生きていられるかの保証だってないって思う。だって、消えたいとか死にたいとか、呼吸をするのと同じくらいしょっちゅう思っているんだから。

 智絵は、せわしなくまばたきをしながら、震える声を無理やり絞り出した。
「こ、高校は、通信制に……どうにか、目指します……」
「そう。じゃあ、それを調査表に書いて提出して。今週末までだけど、学校に持ってこられる?」

 智絵は縮こまったまま、うなずいた。担任は部屋を出ていった。智絵はゲームのポーズボタンを解除しない。
 怖くてキモチワルイんだな、と、わたしは感じた。わたしが体に触れられてイヤだったのと同じように、智絵の範囲はこの部屋なんだ。

「大丈夫? 遅くなるとまずいし、わたし、そろそろ帰るね」
 わたしがそう言うと、智絵はホッとした様子だった。智絵に会えない日が増えるんだろう。わたしは直感的にそう思った。

 普通のこと、当たり前のことができない。学校に行くとか、人としゃべるとか、笑うとか。
 その無力感は、口で説明できるものではない。わたしも、経験して初めて知った。抜け出したい。でも、どうしようもない。普通って何だろうって考えても、答えは出ない。考えずに振る舞うことが普通なんだろう。それができないなんて。