ナサニエルさんがポケットからスマホを出した。
「授業中、おもしろかったから、写真を撮らせてもらった。他人には見せないという条件付きだったけど、マドカならOKだろ」
ナサニエルさんのスマホに表示された写真は、最近話題のRPGの画面を撮ったものだった。主人公の姿に、ユキさんが驚きの声をあげた。
「このキャラクタ、ナサニエルにそっくりだね」
「そっくりで当然さ。おれ自身を3Dで投射して作ったアバタだからな」
デジタル系に強くないユキさんは、きょとんとした。
でも、あたしはもちろん意味がわかる。思わず、ナサニエルさんに詰め寄った。
「スキャニングのデヴァイス、授業で使ったんですか?」
「ああ。授業のメンバーは全部で十人なんだけど、一ノ瀬教授の研究室に招かれて、アバタを作らせてもらった。デジタル技術の最先端に触れてるんだなと感じて、楽しかったよ」
自分の姿を画面の中に移せるあのデヴァイスを見付けたくて、家じゅう探した。父の部屋にまで忍び込んだのに、見付けられなかった。
「大学の研究室にあったんだ」
あのデヴァイスを使いたい。アイトの隣に行きたいから。
そのためには、響告大学の父の研究室に潜入する必要がある。父と話したり顔を合わせたりせずにデヴァイスを使うには、どうすればいいだろう?
考え始めたあたしの目の前に、少し色をくすませたニーナが降りてきた。クリアじゃない光り方は、あたしの頭の中が整理されていないせいだ。
「マドカちゃん、あの……」
心配そうに口を開いたユキさんに、あたしはごまかし笑いを浮かべてみせた。
「すみません。あたし、なんか今日、いろいろ考えたりしちゃって」
「それはいいいんだけど。無理しないでね?」
「平気ですよ。あ、それより、さっき搬入された商品の名前や値段、管理ソフトに打ち込まなきゃ。あたし、やりますね」
「ああ、うん、お願い」
はい、と答えながら、あたしの頭は半分、計算室のアイトのことを思い浮かべている。
ねえ、アイト。あたしがきみの部屋に入っていったら、驚いてくれるかな? 喜んでくれるかな?
アイトは昨日、あたしにとって家族以外でいちばん親しい人は誰か、訊きたがった。あたしは、ユキさんとナサニエルさん、マァナとダバのことを答えた。
目を丸くしたアイトの顔、ちょっとかわいいんだよね。
「妖精は、ニーナのほかにも、身近にいるんですね? 全人口に対する妖精持ちの割合に照らせば、妖精持ちの友達がいるのは、珍しいことでしょう?」
「そうだね。あたしも、自分以外の妖精持ちとは初めて出会ったし、出会えるとも思ってなかったよ」
「人間は孤独では生きられない、という話を読みました。あなたが孤独でないとわかって、AITOは、ほっとしました」
バカだなあって、あたしは笑ってしまった。あたしの目の前にはアイトがいたんだから、孤独なはずはなかった。
アイトに言ってあげなきゃいけない。休みの日にコーラル・レインで人と話すだけだったあたしが、今は毎日、口を開いて声を発している。アイトがいるおかげだ。
「あたしは孤独なんかじゃないよ」
両手のひらにつかまえたニーナにささやくふりをして、あたしは、ここにいないアイトに語り掛けた。あたしの手の中で、ニーナが一瞬、鮮やかなピンク色に輝いた。
「授業中、おもしろかったから、写真を撮らせてもらった。他人には見せないという条件付きだったけど、マドカならOKだろ」
ナサニエルさんのスマホに表示された写真は、最近話題のRPGの画面を撮ったものだった。主人公の姿に、ユキさんが驚きの声をあげた。
「このキャラクタ、ナサニエルにそっくりだね」
「そっくりで当然さ。おれ自身を3Dで投射して作ったアバタだからな」
デジタル系に強くないユキさんは、きょとんとした。
でも、あたしはもちろん意味がわかる。思わず、ナサニエルさんに詰め寄った。
「スキャニングのデヴァイス、授業で使ったんですか?」
「ああ。授業のメンバーは全部で十人なんだけど、一ノ瀬教授の研究室に招かれて、アバタを作らせてもらった。デジタル技術の最先端に触れてるんだなと感じて、楽しかったよ」
自分の姿を画面の中に移せるあのデヴァイスを見付けたくて、家じゅう探した。父の部屋にまで忍び込んだのに、見付けられなかった。
「大学の研究室にあったんだ」
あのデヴァイスを使いたい。アイトの隣に行きたいから。
そのためには、響告大学の父の研究室に潜入する必要がある。父と話したり顔を合わせたりせずにデヴァイスを使うには、どうすればいいだろう?
考え始めたあたしの目の前に、少し色をくすませたニーナが降りてきた。クリアじゃない光り方は、あたしの頭の中が整理されていないせいだ。
「マドカちゃん、あの……」
心配そうに口を開いたユキさんに、あたしはごまかし笑いを浮かべてみせた。
「すみません。あたし、なんか今日、いろいろ考えたりしちゃって」
「それはいいいんだけど。無理しないでね?」
「平気ですよ。あ、それより、さっき搬入された商品の名前や値段、管理ソフトに打ち込まなきゃ。あたし、やりますね」
「ああ、うん、お願い」
はい、と答えながら、あたしの頭は半分、計算室のアイトのことを思い浮かべている。
ねえ、アイト。あたしがきみの部屋に入っていったら、驚いてくれるかな? 喜んでくれるかな?
アイトは昨日、あたしにとって家族以外でいちばん親しい人は誰か、訊きたがった。あたしは、ユキさんとナサニエルさん、マァナとダバのことを答えた。
目を丸くしたアイトの顔、ちょっとかわいいんだよね。
「妖精は、ニーナのほかにも、身近にいるんですね? 全人口に対する妖精持ちの割合に照らせば、妖精持ちの友達がいるのは、珍しいことでしょう?」
「そうだね。あたしも、自分以外の妖精持ちとは初めて出会ったし、出会えるとも思ってなかったよ」
「人間は孤独では生きられない、という話を読みました。あなたが孤独でないとわかって、AITOは、ほっとしました」
バカだなあって、あたしは笑ってしまった。あたしの目の前にはアイトがいたんだから、孤独なはずはなかった。
アイトに言ってあげなきゃいけない。休みの日にコーラル・レインで人と話すだけだったあたしが、今は毎日、口を開いて声を発している。アイトがいるおかげだ。
「あたしは孤独なんかじゃないよ」
両手のひらにつかまえたニーナにささやくふりをして、あたしは、ここにいないアイトに語り掛けた。あたしの手の中で、ニーナが一瞬、鮮やかなピンク色に輝いた。