こんなこと、言葉にしたのは初めてだ。胸に秘めた思いは、口に出したとたんに実像を持ってしまう。だから、あれが苦しい、これがつらいなんて、いちいち言いたくない。
 あたしの肩に、ニーナが、すとんと落ちてきた。淡いピンク色がくすんでいる。
 ほらね。動けなくなるでしょう。

 冷え性のあたしよりニーナの体温のほうが高いはずなのに、今はニーナも冷え冷えしている。頬に触れても、ぬくもりが伝わってこない。
 アイトがニーナを見て、あたしを見た。

「妖精について何度も調べてみましたが、十分な量の情報を得られません。直径十センチメートル程度の球形であること、光エネルギーと熱エネルギーを発することなど、外見的な特徴のみ、少しの情報を得ました」

 妖精は軽い。でも、明らかに空気より重いから、地球上の重力の影響を受ける。勝手に浮き上がるはずない。
 けれども、妖精は、なぜだか飛んでいる。ぱたぱた羽ばたく様子もないし、そもそも翼も羽も持たないのに。

 妖精は食事を取らない。光合成をしているわけでもない。何を動力にして生存しているのか、まったくわからない。
 あたしは、ニーナの手ざわりを、ふわふわぷにぷにだと感じている。でも、妖精にさわっても、さわっていると感じられない人もいるらしい。

 いつの間にか、コンピュータが大音量で唸り始めている。アイトが妖精についての情報収集を続けているせいだ。
 アイトには保護フィルターが設定されていて、妖精の情報はフィルターに引っ掛かる。だから、無理に調べようとすればするほど、コンピュータには負荷が掛かってしまう。

「ストップ、アイト。答えを探そうとしないで。妖精のことは、今の科学のレベルではわからないの」
「わからないのですか?」
「うん。人間の脳のことがほとんどわかってないのと同じ。妖精は、宿主の脳の深いところとリンクしてるって説があって」