「あなたの家族は、どのような構成ですか?」
「父と母とあたしとニーナだよ」
「彼らとの関係、彼らに対する感情を教えてください」
「んー、関係と感情、かぁ……」

 放課後、学校から帰ってきたあたしは、まっすぐに計算室のアイトのところへ行く。あたしがディスプレイのすぐそばに立ったら、アイトはスリープ状態から覚めて、知りたいことを次々と投げ掛けてくる。
 あたしが学校に行っている間、アイトも「学習」しているらしい。何を学習しているのかといえば、今は、人間的な動き方や表情、話し方を習得したいんだって。

 顔を合わせるたびに、アイトのまばたきや身振り手振りが自然になっていく。最初からそれがインプットされていたわけじゃないんだ。アイトが自分で学習して身に付けたらしい。
 頑張っているんだね、と誉めたら、アイトは嬉しそうに笑う。覚えることが楽しいんだって。楽しいって言いながら、アイトはまた笑う。
 アイトが楽しそうにしていると、あたしも嬉しい。だから、ちょっとくらい面倒でも、あたしはアイトの質問に答えることにしている。

「あたしの父はね、大学教授なの。情報工学が専門で、この計算室も、父のものなんだ」

 昔はよく遊んでいた計算室に、最近また出入するようになって、この部屋のコンピュータの異様な大きさに改めて気が付いた。本体の大きさは、冷蔵庫二つぶんはあるだろう。電源のスイッチはガラスケースで封印されて、オフにできないようになっている。
 本体はすごく熱い。部屋のエアコンががんがんに回っているのも、本体に内蔵されたファンが低く大きな音で唸っているのも、この熱をどうにかしないと、あっという間に機械が止まってしまうからだ。

「プロフェッサ・イチノセは、あなたのおとうさんなのですね」
「アイトも、おとうさんのこと知ってるんだ? もしかして、アイトを造ったのもおとうさんなの?」
「詳細は秘匿事項ですから話せませんが、プロフェッサ・イチノセは、AITOプロジェクトに関係する一人です」
「ふぅん。でも、その割に、おとうさんがここでアイトと話す気配ないよね」
「プロフェッサ・イチノセと話したことはありません。AITOがここで話をする相手は、あなただけです」

 あなただけって甘く響く言葉とともに、アイトは微笑んだ。
 不意打ちだ。美少年がそんなことするな。心臓に悪い。
 笑い方を覚えたアイトは、ときどき、かなりずるい。言葉尻で不意に、にっこりする。ディスプレイに近付いているあたしは、毎度毎度、どきっとしてしまう。思わず目をそらしたら、追い打ちが来た。

「どうしましたか? なぜ、違うほうを向くのですか?」
 小首のかしげ方も、ずるい。大きな目をきょとんとさせて、少しかがんで、あたしの顔をのぞき込むようにする。