わたしは問題用紙を表に返し、問題を通読する。大嫌いな数学だ。

 だけど、すらすらと解ける。どうしてこんなに解けるのだろう、と思ってから、ああわたしは今は松本くんなのだったと思い出す。頭脳は松本くんのものそのものだった。

 しかし、三問ほど解き終えてから、はたと鉛筆が止まる。問題はまだまだあるのに、鉛筆が動かない。どうして動かないの、これじゃ赤点になっちゃうじゃないの――と思うが、どうしても手が動かない。

 下の方から、大勢の男の子の声が聞こえる。どうしてもそちらへと松本くんは気がそれてしまうらしい。

 鉛筆を置き、席を立つと、さっきまで上っていた階段の下が見えた。そこでは複数の少年たちがある者はグローブを手に、ある者はバットを手にし、和気あいあいと野球の練習に取り組んでいる。

 わたしも下に行こう――そう思い、階段を降りようと足を踏み出したその瞬間、強い風が吹き、さっきまで目の前にあった螺旋階段が崩れ落ち、片足だけさしだしていた松本くんはまっさかさまに地上へ落っこちていった――。

◇◇◇