「そんなことはないよ」

 松本くんは謙遜の言葉を口にする。

「いつもこの公園で素振りしてるの? どうしてここで?」

「実は半年ほど前にこの近所の一戸建てに引っ越して来たんだけど、庭が狭くて素振りが出来ないんだ。かといって家の中じゃ危ないし。ここなら誰にも迷惑をかけないだろ?」

「松本くん、この近所に住んでるんだ。知らなかった」

「学校から徒歩圏内の場所に引っ越したかったんだ」

 そこまで話してから、わたしはふと手元のビニール袋に目を落とした。そういえば、まだ口にしていないアイスがあったのだ。袋の中から、アイスを一つ、手に取って松本くんへ差し出す。

「そうだ、アイスあげるよ。新発売なんだ」

「いいのか?」

「もちろん。ちょっと多めに買っちゃったから」

 急にアイスが出て来たことに少々驚いたようだが、松本くんはアイスを受け取ってくれた。

 二人で傍のベンチに腰掛け、アイスを味わう。ひんやりした夜の公園でアイスを食べるというのは、なかなか悪くない。ちょっと不良少女になった気分に浸れる。