「私が委員長をやります」

小神忠作、その人だった。

 周囲の会計委員たちもわたしと似たような反応だった。

 小神の挙手をそのやや虚ろになった目でぼーっと見つめ、しばらくそうしてからはっと、それが委員長の立候補だと気付く。

 どうしてこの人は男子なのに一人称が「私」なのだろう――そんな素朴な疑問が、委員たちの間に広まるか広まらないかの瀬戸際のタイミングで、司会の三年生はにっこりとほほ笑んだ。

「小神くん、ありがとう」

 彼は実にスマートな動きで黒板に小神の名前を書いた。

 きっとこの同級生は小神の性格を高校三年間の生活を通して知悉しているのだろう。

 小神が委員長に立候補することはあらかじめ小神から伝え聞いていたかのように、自然な反応でほほ笑んでみせたのである。

 こんなことは想定内の出来事だ、と言わんばかりの洗練された反応だ。

 しかし他の学年の者にはそれがわからない、そんな教室の空気であった。