いや、「ほんのすぐそば」なんていうまわりくどい言い方はやめにしよう。

 わたしの真後ろ――すなわち、松本くんの席だ。

「俺、会計委員やります」

 松本くんのくっきりとした声が教壇に向かってまっすぐに響いた。

 それまで各々近い席の人間に「やらねーの?」なんて押し付け合っていた生徒たちが、一斉に松本くんを振り向く。

「松本、やってくれるのか。ありがとう」

 担任はぱっと目を輝かせて黒板に松本大輔の名前を書き入れた。

「さっすが松本~」「頑張れよ」

 教室の中で飛び交い始めたそんな声を、ぴたっと止めるものがあった。

 それは、自然と天井に向かって伸びた、わたしの右腕だった。

「わたし、女子の会計委員やります」