「出すことには出したけど、そこまで本気じゃないっていうか、割と適当に書いたというか」

 恥ずかしながらも、正直に吐露してしまう。己の額から変な汗が湧いているのに気付いていないわけじゃない。

 同い年であっても自分よりはるかに優れている人物の前ではどういうわけか先生相手にしゃべっているような気になるという、あの謎の現象が今わたしの身に起こっている。

 なんでこんなに緊張してるんだ、わたし。

 意外なところで自分の器のちっぽけさを思い知らされた星野かおるであった。

 ふうん、と松本くんは今手にしていた参考書を棚に戻した。

 彼みたいな成績優秀者には、わたしの言っていることはふざけているように聞こえるのかもしれない。そう思ったが、松本くんはこう続けた。

「将来やりたいこととか、ねえの?」

 その声は、わたしのことを心配してくれているように聞こえた。いたわってくれているのはありがたいが、その問いにさえ、弱々しく首を横に振ることしかできない。

「特にないなあ。何をやっても、本気になれないの。熱しやすく・冷めやすい」