そんなことはさておき、わたしは世間話程度に松本くんにこう話しかけた。

「松本くんも参考書買いに来たの?」

「そう。新しい問題集を買いに」

「もしかして生物?」

 わたしは、余計なことかもしれないと思いながらも訊いてみた。今日の五時間目の終わりに、松本くんが先生のもとに何かが印刷された紙を持っていっているところが見えたからだ。

 途端、松本くんの顔つきが変わった。わたしが言い当てたことに驚いているようだった。

「そうだけど、何で分かったんだ?」

 反射的に五時間目のことを言おうとして、わたしは一旦口を閉ざす。声のトーンを落として、背伸びし、松本くんの耳にほんの少し顔を近付ける。ちょっと汗臭いが、いたずらのためにはガマンガマン。




「ここだけの話なんだけど、わたし、人の心を読む力があるんだよね」