思わず、声に出して驚嘆するわたし。だって、わたしが中庭を出ようとしている時は、まだ松本くんは後片付けの最中だったはず。

 ということは、最初から直接生物教室に向かうつもりで準備していたのか。それにしたって、足の速いことだ。こんなことでさえ、尊敬してしまう。

「ねえ、かおるったら、聞いてる?」
「へ?」
「だからぁ。何を先輩と話してたの?」

 そう尋ねる友人の目は、明らかにふわふわした恋愛の話を期待する目だった。そんな話、期待されたって困る。小神との恋愛話なんて、一生有り得っこない。

 とはいえど、まさか二人で松本くんの話をしてた、とも言えない。斜め前の席に本人がいるわけだし。

「ちょっとした世間話だよ」

 わたしはなんともないのだ、という点を強調しつつ、自然さを意識して答える。

「なあんだ、つまんない」


……すごく露骨なリアクションをどうも。


 わたしの息が整ったところで、先生が「悪い悪い、電話が長引いてな――」と汗を拭きつつ入って来た、のだが。

 ちょうどそのタイミングでわたしの方を見やる視線があったことに、そのときのわたしは一切気が付いていなかった。