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 松本くんは転校し、小神も普段通り元気に(皮肉を込めて、こう表してみよう)学校生活を再開した。

 ところで、小神の家に行く数日前、まだ小神が学校を休みがちだったある夜のことを語るのをわたしは忘れていたようだ。

 とある夜、夢を見た。夢の冒頭から気付いていた。それがわたしの夢ではないことを。わたし以外の誰か他人の夢を盗み見ているのだと。

 そこは放課後の教室――たぶん、わたしたちの通う高校の一階だろうか?

 ということは自動的に学年が一年生ということになるのだが、一階にあるとある教室にわたし、というか夢の主はいた。

 そこにいるのは(誰かは知らないが)夢の主と、女子生徒だった。

 女子生徒の着衣から、それが間違いなくわたしの高校であると判断できた。

 しかし女子生徒に見覚えはない。

 なかなかの美人で、引き締まった口元からは彼女の利発さが感じられた。一体この生徒は誰だろう?

「最低ね、覗き見なんて」

 彼女の口から前触れなく飛び出たその言葉に、わたしの心臓が大きく跳ねた。

 夢の中だというのに、額の汗腺がぷつぷつと開くのがよく分かった。