「でも俺は一人っ子じゃないんだ。もしも親が俺一人のサポートに注力したら、弟や妹はどうなる? そうやって一人のわがままのせいで家庭を崩壊させたアスリートは、この国にごまんといるんだ。そんなことも知らないあんたに、何がわかるっていうんだ!」

 松本くんの切実な叫び。

 わたしには小神の言っていることがよくわかる。

 でも同時に、松本くんの思いも痛いほどよくわかる。

 小神はこれまでのふるまいから十分わかるように、いわゆる「いいトコの坊ちゃん」だ。

 ナイフフォークのさばき方ひとつとっても、小神家の豊かさや教養が見て取れる。

 もちろん判断すべき根拠はそれだけではない。

 あらゆる所作や言葉遣い、腕時計などの身に着けるさりげない装身具など、やはり小神を「庶民」にカテゴライズするわけにはいかなかった。

 別にわたしは社会階級や家格、家庭教育の質で人間をカテゴライズすることを正当化するつもりはない。

 しかしそれがその人の人生を左右してしまうという事実があることは、否定することが出来ない。

 人間は決して生まれつき平等にできているわけではない。残念なことに。