フェンスの外側に、スーツをびしりときめた背の高い男が立っていたのだ。肩ががっしりしている。

 でも、彼には顔がなかった。のっぺらぼうだ。

 その横には小柄な男もいた。

 こちらにも顔がない。

 つるりとした肌色がそこに存在するだけだった。

「何事にも努力を欠かさない姿勢は評価に値する。この分なら内申点に問題はなさそうだ。卒業式の答辞も松本に任せようじゃないか」

「そうですね、校長」

 そう言ってろくに試合も見ずに立ち去ろうとする二人を、わたしは慌てて制止した。

「プロ野球選手は駄目なんですか?」

 自分の声がさっきのように歪んでいないことを確認して、わたしは胸を撫で下ろす。

「プロ?」

 二人は顔を見合わせた。

「プロはないだろうねえ」

「プロになるには身体が細すぎる」

「それに走攻守、いずれをとっても悪くはないのだけれど、飛びぬけてどれかが強みになっているわけでもないからねえ」

「それに、プロ野球選手だなんて、人生設計の立てにくいことと言ったら」

 それだけをまくしたてるように喋り切ってしまうと、二人の男はどこへ行くともなく消えてしまった。