自分が振り絞った声は、震えていた。震えているように自分の耳には届いた。

 それまでずんずんと足を前へ前へと動かしていた松本くんがぴたっと歩みを止める。

 ちょうど、住宅街の手前の信号は赤だった。

「は? どういう意味」

 振り向いた松本くんの顔は、今まで目にしたこともないほど不機嫌だった。でもわたしは臆しない。

 これが今日のために小神がチケットを用意してくれた意味なのだと、もうわたしは気付いていたのだから。小神にできなかった仕事を、わたしが成し遂げなければいけないのだ。

――わたしが、松本くんを救う英雄になるんだ。

「本当は百パーセント野球に熱中したいくせに、失敗するのが怖いんでしょ?」

 数字のことは苦手だ。野球のこともよくは知らない。

 でも、言ってみるしかない。

「野球で食べていけるのは何百人に一人の確率。野球を選んだところでけがをしたらそれで野球選手としてのキャリアは終了。それよりは有名な大学や会社に入って安定した生活をする方が安全で堅実だもんね。野球だけの人生は選べない。
 野球それ自体は安定した人生を送るための一要素なだけだって自分に言い聞かせて、周りにもそう言って誤魔化してしまえば恰好悪くはない……そうなんでしょ?」