電車がわたしたちの自宅の最寄り駅に着く。

 途中から随分乗客が減ったとはいえ、ホームに出ると確かな解放感があった。

 デーゲーム後の電車は少々息苦しかった。

 改札を出るなり、松本くんはわたしに向かってというよりは、呟くように、

「俺にとっての野球って、みんなが思ってるほどのものじゃないよ」

 真意を測りかねて、わたしは首を傾げる。松本くんの顔からは表情というべきものは全て消え去っていた。

「みんな、昔から言うんだよな。松本は凄い。走攻守何をとっても磨かれている。きっと松本はプロを目指しているんだ――って。余計なお世話だよな。誰もプロになるなんて言ってないってのに」

 松本くんの足は駅舎の外へと向かっていた。

 わたしは慌ててその後を追う。

 結構、松本くんは速歩きなのだ。

 方角は高校とは反対側、かつてわたしが素振りする松本くんと出会った公園の方向――つまり彼の自宅の方向だった。

「俺にとって野球は通過点でありゴールじゃないんだ。
 道具であって目的じゃないんだ。

 野球を通して心身を鍛える。内申点を上げる。
 就職活動をしたときのPRにする。
 人脈を築く――野球経験がどれほど進学や就職にどれほど有利に働くか、俺は計算している」

 嘘つき――わたしはズンズンと歩を進める松本くんに必死に追いつきながら、こっそりと眉を吊り上げた。

 松本くんの嘘つき!