「どうしたの?」

 問われてはっと松本くんは顔を上げた。青ざめた顔のまま、

「前に受けた模試の結果が、ね」

と語尾を濁す。

「模試の結果が、メールで返却されたってこと?」

「いや、そうじゃないんだ。結果は自宅に郵送されたんだけど、親父がそれを開封したみたいで。それでお怒りのメールが来たってわけ」

「お父さんが勝手に開けちゃったの? ひどいよ。わたしだったら絶対怒る」

 少々これには驚きを隠せなかった。

「うちではそういうことになってる」

 松本くんは何でもないことのように答えた。松本家では当たり前のことというわけだ。

「早く帰って来い、だってさ」

 松本くんのその台詞を待っていたかの如く、折よく電車がホームに入ってきた。

 電車は当然というべきか満員電車で、わたしと松本くんとの間に隙間はなく、ぴったりと太い腕と華奢な腕(自分では少なくともそう思う)とをくっつかせるような体勢になった。

 そんな体勢の中ふと松本くんを見上げると、さっきまで浮かべていた満足げな表情は幻覚だったかのように消え去っていた。

 残っていたのは暗澹たる色。

「あまり落ち込まない方がいいよ。だって模試だもん。本番じゃない」

 すっかり元気を失った松本くんを励ますように、わたしは微笑む。