「まさか!!」

 そんな下らないやり取りを耳にして、わたしを「眩しく」思う人間がこの世にいるわけがない。

 馬鹿にしているのだ。

「嘘でも誇張でもありません。心の底から松本くんはあなたをかっこいいと思ったんですよ、星野さん。あなたのその頑固さと愚かさを、彼は肯定すべきものと捉えたのです。これがどういうことか、あなたにわかりますか?」

「愚かさって……全然、ちっともわかりません」

 小神は眉根を寄せた。それから、悲しげな声色でこう言った。

「松本くんは『本当の自分の意思』とでも言うべきものを見失ってしまっているのです。

 幼いころからただひたすらに堅実さと真面目さが美徳であると教育されて育った松本くんには、もはや自分の本当の価値観というべきものがほとんど残っていないのです」

「価値観! そんな立派なもの、わたしにだってありませんよ!」

「ひょっとしたらないのかもしれません。
 でも、既成の価値観をそのまま黙って受け入れることをしない人物――そのように松本くんの目に映ったというのは事実なのです。
 私はその夜の後も、幾度か同じような夢を覗きました。
 いずれも、星野さんへの憧憬が見受けられるものでした」