わたしがこう話すと、小神は首を振った。

「いえ、私が松本くんがスーパー・ヒーローであると表現したのは、彼の野球上における実力についてではないのです」

「違うんですか?」

「早とちりしないでください」

 そこでいったん小神は言葉を区切り、不思議そうに首をひねり、安っぽいグラスに入った水をごくりと飲み込んだ。それから何か合点のいったような表情をする。ああ、なるほど、と呟き、一瞬だけにやっと表情を崩した。

「星野さん、彼の名前に引っ張られましたね? 確かに、『本』と『坂』の一字違いですから、仕方ありませんねえ」

……いらっ。

 わたしの無意識による過ちを指摘してくれたようだが、なんとなくその言い方と表情に腹が立ってしまうのはなぜだろう。さも自分が世紀の大発見をしたかのような顔ぶりだ。くっそ、この程度の揚げ足取りでにやにやしおって。

 確かに「松本大輔」という名前の「本」の字を「坂」に入れ替えるだけで大投手の名にはなるけれど。

「じゃあ、あなたは何が言いたいの?」

「彼の野球上の実績ではなく、その努力する姿勢そのものが、わが校のスーパー・ヒーローだと言っているんです。そしてそんな彼こそが、高校に入学してから堕落しきったあなたを救う人でもあるんですよ」

「んなっ……!」

 わたしはそこで、顔を赤らめ、絶句してしまった。その時ちょうど口にしたハヤシライスが予想以上に辛かったからだ。

……もちろんそうではない。冗談です。羞恥のあまり、だ。