わたしが「イエス」とも「ノー」とも言わぬうちに、小神は静かな動作で傍らのメニューを開いた。それから華麗にページを一枚、二枚とめくり、どの食事で自らの胃袋を満たすべきかを穏やかな面持ちで吟味する。自らの胃の中に納めるものは自らの目で選びぬかねばならない。

 それが小神のポリシーなのだ――というナレーションが付いてもおかしくないように見える。全く、この品ある動作はどうやって身に付けたのだ?

 ここはあくまで、一品四百円から九百円の範囲に収まるメニューがほとんどのファミレスなのに。

「私はこれにしましょう」

 そう言ってわたしに見せたのは、ごくごく普通のハンバーグプレートだった。

 ここでもっとわたしを驚愕させるメニューを頼めよ!

 そう内心で突っ込みながら、わたしがメニューを受け取ろうとすると、

「星野さんのメニューはもう決まっています」

「は?」

 小神はごく当然そうに告げ、メニューをさらに二枚、三枚とめくった。

「これこそ、あなたに相応しいメニ――」

「お子様ランチじゃないでしょうね?」

「……わかってしまいましたか」

 小神と出会ってかれこれ二年。

 さすがにそれくらいのことはわかるようになってきた――そんな自分が悲しくて仕方がない。