また“表面的”という言葉が出てきた。
半端な姿勢だった私は、ピアノを背にして相良くんの方をちゃんと向いて椅子に座りなおす。

「ねぇ、表面的ってどういうこと?」
「言葉どおり」
「上辺だけって?」
「うん。なーんにも伝わってこないし、楽譜をただなぞっているだけって感じ?」
 
なんでそんなことを彼に言われないといけないんだ、初心者のくせに。
そう思うも、彼は耳がとてつもなくいいから、そういうのを聴きとる感覚までもが敏感なのかもしれない、と無視できない自分がいる。

「でも、知らないかもしれないけど、コンクールでは正確さのほうが重要なんだよ」
「へぇ」
「基本ができてこそのアレンジでしょ? ピカソみたいに?」
「ピカソ? なんで画家が出てくんの?」
 
私は、首を捻って聞いてきた彼に、ピカソが本当は写実的な絵もめちゃくちゃ上手だということを教える。
相良くんは、「そうなんだ、あれ、俺でも描ける落書きじゃん、って思ってた」と感心した。